56 アイツ、なんなわけ?(2)
夜、アリアナはじっとデスクに向かって試験の予定表を眺めていた。
なんだか身が入らず、ぼんやりと眺める。
文字を追うのに、頭に入ってこない……。
「む〜〜〜〜ん……」
唸っていると、コンコン、と窓が叩かれた。
もう何度目になるだろう。
突然、この音がすることに慣れてしまった自分が居た。
むしろ、嬉しいとまで思ってしまう。
振り向くと、窓の外にはライトが居る。
……この人が、どこの誰かも分からないのに。
話していると、楽しいとまで思ってしまう。
「こんばんは」
なんだかちょっと悔しいけれど、アリアナには窓を開けない選択肢はなかった。
「こんばんは」
ちょっとした微笑みで、私達はちょっとだけ仲がいいんだって思える。
いつも通りソファに向かい合って座る。
すると、ライトが、アリアナを覗き込むように見た。
「今日はどうかした?」
「え?」
いつもと違う、なんてわかってしまうほど、私は分かりやすかっただろうか。
ライトと、目が合う。
「なんだか、元気ないみたいだ」
…‥まさか、ライトにぼんやりしてしまっているのが分かってしまうなんて。
別に元気がないわけではないけれど。
ぼんやりしてしまっていたのは確かだった。
アリアナは、慌てて元気がない理由を探す。
「もうすぐ試験で。自信がないの」
アリアナは、少しだけしょんぼりした顔を作った。
実際のところ、自信がない、というのは本当だ。
「自信がないって?」
ライトのうかがうような瞳。
「高等科に入って、初めての試験なの。今回から実技も増えるわ。筆記試験だって、ギリギリなのに」
「ギリギリって……、勉強は得意なんでしょ?」
“得意”と聞いて、苦笑するように、困った顔で笑った。
「そうでもないわ。実際、うちの弟に勉強を教えているのは私じゃないの」
そうだ。
アレスに勉強を教えているのは、私じゃない。
レイノルドが優秀な魔術師だからだけじゃない。
アリアナがレイノルドに勝てるのは、剣術のような身体を動かす事ばかりだ。
「それは……、身内だと君の弟が甘えてしまうからだろ?」
「そうね、それもある」
けど、それだけじゃない事も知っている。
それでも思ってしまうのだ。
レイに勝てないにしても、出来るだけ、離されたくない。
少し、アリアナが泣きそうな顔をした。
ライトは、そんなアリアナを見て、少し混乱した。
……あんな奴に、アリアナが勝てないとは思えないけれど。
そこまで思い悩む程なのか。
声をかけずには、いられなかった。
「アリアナ」
呼ばれて、ライトの顔を見た。
なんだか、優しさを持った名前の響き。
こんな風に名前を呼ばれるのは、初めてなような。
けど、どこか懐かしいような。
なんだかくすぐったい。
「僕でよければ、手伝うよ」
「手伝う、って……?」
「勉強、得意なんだ。魔術なんかも」
アリアナが、一瞬、キョトン、とした。
アリアナは文武両道。
レイノルドは器用で勉強も得意ですが運動は不得意です。
ちなみに、アレスは勉強が得意で、特に本の読み書きが得意です。
ルナは勉強も運動もそこそこですが、楽器の演奏、特に鍵盤楽器が得意です。




