54 負けないからな
授業終わりに配られたのは、期末試験の予定表だ。
予定を確認するアリアナの隣で、アイリが震えながら予定表を眺める。
アイリは試験なんて初めてでしょうからね。
緊張するのも仕方がないわ。
アリアナが立ち上がると、それを見計らってか、アリアナの前に立ち塞がる人物が居た。
マッシュルームを可愛くしたようなグレーの癖っ毛。
ピシッとした眼鏡。
細身のその少年は、アリアナを睨みつけるように立った。
マーリー・リンドベル。
他でもない、このアカデミーの学園長、リンドベル子爵の息子だ。
「…………」
この少年もアリアナのハーレム候補だ。
このアカデミーの学園長の息子。
それも、本人もなかなか勉強が得意なところをみると、仲良くしておいて損はないじゃない?
それでもいまいち仲良く出来ずにいるのは、この攻撃的なところがあるからだろう。
アリアナとマーリーは、中等科から一緒だった。
この1学年1クラスのアカデミーにおいて、同じ学年ということは、同じクラスということだ。
「今度こそ、負けないからな!」
マーリーが、アリアナに叫ぶ。
中等科の頃からこうなのだ。
平民上がりの子爵令息というコンプレックスと。
学園長の息子というプライドを持ち合わせている。
けれど、どうしても試験でアリアナに勝てないのがマーリーなのだ。
まったく。
キャンキャン騒ぐトイプードルみたいだわ。
「今度は勝てるといいわね」
にっこりと、極上の笑顔を返す。
実際、高等科の試験は実技も多く、順位が変わる可能性は多大にあるのだ。
ふん、と鼻息を荒くしたマーリーは、それでもまだアリアナの前に居た。
……注目されるから嫌なのだけれど。
高等科から入ってきたメンバーが、驚いているじゃないの。
隣に居るエリックだって、離れた場所に居るレイノルドとアルノーだって。
そっとマーリーの近くに寄ったアリアナは、マーリーの髪に手を伸ばす。
「あら、糸屑がついてるわ」
「…………っ!」
もちろん、糸屑なんてついてない。
引いたら着いてきそうな奴は、たまには押してみると反動で離れるものだ。
黙って立ち止まってしまったマーリーに、にっこりと、
「頑張ってね」
と笑顔を向けた。
うんうん、大人しくなったわ。
「……賭けをしないか」
マーリーの声は静かだったけれど、突拍子もないことを言い出す。
「……賭け?」
突然の提案だけれど、実は、中等科の頃から、マーリーはそんな事を言いそうな気配はあった。言わせなかっただけで。
そんな面倒なこと……、と思いつつ、マーリーを懐柔するには、ここで乗ってあげるのも一つの方法かもしれないとも思う。
「どんな?」
興味がありそうな顔を作る。
こんなの、左門が読まされていた少女漫画みたいじゃない。
これはまさに、対立する男女がお互いを認めつつ恋に落ちるやつ!!
いいじゃない。
利用してやるわ。
「僕が勝ったら、食堂で昼食を1週間奢ってもらう」
「…………」
私の奢りで食事をする?
これは、お金目当てでも一緒に食事がしたいわけでもないだろう。
みんなに見せるのが目的なんだ。
アリアナ・サウスフィールドが、マーリー・リンドベルに食事を奢るところを。
そうするとどうしても、試験対決でアリアナが負けたなんて話が広まってしまう事だろう。
けど、昼食を一緒に、というのは悪くないわね。
「そうね、じゃあ……私が勝った時も、昼食を奢ってもらうわ」
これで、どっちに転んでも昼食時には一緒ね。
ハーレム候補がまた一人。




