53 のんびりピクニック
兄弟達の約束は、思ったよりもずっと早く果たされた。
王都から馬車で30分ほど走ったところに、その湖はある。
のどかで和やかで大きなその湖は、魚も釣れるし、時折、鹿や兎といった動物も姿を見せる。
その雰囲気から、ピクニックをするのに丁度いい場所で、貴族達だけでなく平民達もよくそこで遊んでいた。
絵を描く絵描きもいれば、大小様々な小舟が浮かんでもいる。
湖の東側には小さな森が広がる。
その森を挟んで東側には大きな白いレストランが。
南側は広い草原が広がる。
今回、3台の馬車が向かったのは南側の草原だった。
王家の紋章が付いた煌びやかな馬車からは、王家の子供達が。
ルーファウス公爵家の紋章が付いた馬車からは、レイノルドが。
サウスフィールド公爵家の馬車からは、サウスフィールド家の子供達が降りてくる。
降りた瞬間、あちこちで息を呑む声が聞こえた。
それもそうだ。
王家と二大公爵家の馬車が揃って走る事なんて、あまりない事だからだ。
御者はそれぞれの家の護衛が担っているが、兄弟達以外はそれだけで、メイドもつけず8人だけでピクニックに来た。
そうとだけ聞くと危ういけれど、これだけ剣術に長けた者がいれば、そうそう誰かが傷を負う事もない。
「レイ、そっち持って」
アリアナが持ったレジャーシートが、ばさばさと広がる。
「ああ」
つまらなそうな声で返事をしたレイノルドは、渋々シートをひいた。
8人で、力を合わせてお茶の準備をする。
水筒にはレイノルド直々に魔法陣が描かれており、保温効果は抜群だ。
一通り居心地のいい場所が出来上がったところで、キアラが立ち上がった。
「アレス!ルナ!船に乗りましょう!」
「いいじゃん!」
3人がボート乗り場の方へ駆けていく。
ドレスを持ち上げ、キアラがガキ大将のように先頭を走った。
「あっ!こら!」
ロドリアスが慌てて後を追うと、
「キアラ、ルナ、帽子をかぶって!」
と、プリシラが後ろから走って行く。
「ふふっ」
と面白そうにエリックが笑う。
アリアナとエリック、それにレイノルドの3人が、シートの上に取り残された。
湖面はキラキラと輝いて、夏に近づいていることを伝える。
空は晴れていて、さやさやとした木陰の中は、なかなかにいい気分だ。
「こんないい日に、全員の予定が合うなんてね」
エリックが感慨深げに言う。
この社交シーズンは、貴族であれば出来る限り、舞踏会や晩餐会のために時間を空けてある。
「むしろこの時期だから、お昼の時間が空いたのよ」
「そうだね。夜は何処か呼ばれてるの?」
「私はスレイマン伯爵家の晩餐会へ」
アリアナは言うと、レイノルドの方へ向いた。
「レイは?」
ツンとしたレイノルドはつまらなそうに、
「僕も、スレイマン伯爵家に呼ばれてるよ」
と言った。
「じゃあ俺もそれ行こうかな」
エリックは王家なので、王家を呼んでも失礼にならない程度のもてなしができる貴族全てのパーティーに呼ばれていた。
エリックが、顔を上げる。
明るい日差しの中で3人で居ることで、ふと、あの日の事が思い出された。
アリアナがレイノルドに見事な蹴りを食らわせ、二人が疎遠になったあの日のことだ。
あの日のことを思い出す度に、エリックは少しだけ、心臓がきゅっとなる。
思い出す度に、エリックは、名前を呼ぶ。
「アリアナ」
「ん?」
アリアナが応えるのを確かめると、少しだけホッとする。
陽の光の中で、アリアナの髪が揺れる。
ふんわりと笑うアリアナは、陽の光の下にいるのが、一番似合うんだ。
兄弟達ののんびりとしたひとときもあるのです。




