46 ドレスを着る日(2)
挨拶も落ち着いてきて、アレスとルナを安全な場所まで送ると、くるくると周りを見渡した。
シシリーやアイリ、それにドラーグも呼んだのだ。
どこに居るのかしら。
あ。
遠く壁際で、アイリが食事のテーブルを遠目で見ながらオロオロしているのが見えた。
あの子ったら。
始まるまで食事は我慢!
ああっ。もっと周りに気を配って。
少し小走りで、アイリの方へ向かう。
慌てていたのはむしろアリアナの方だったと言ってもいい。
こういう場に慣れていないアイリを誘った事を、気にかけていたのだ。
そばについて、サポートしてあげなければと。
と、人の陰から子供が走って出てくるのに遭遇してしまった。
あ、ぶつか……!
「…………っ!」
避けた上で踏みとどまろうとした結果、前へ。
倒れる……!
その瞬間、目に入ったのは、誰かの腕だった。
あ…………。
お腹から腰を支えられ、なんとか踏み止まる。
視界にプラチナブロンドが入った瞬間、緊張が走る。
レイ……?
バランスを保ち直したアリアナから、その腕がするりと離れていく。
「……っと」
最後の一歩、というところで、目に入ったのはその先に居た誰かの手だった。
差し出されたその手に、そのままの流れで思わず掴まる。
「こんにちは、アリアナ」
顔を挙げると、そこに居たのはアルノーだった。
にこやかな挨拶。
繋がれた手。
じゃあ、やっぱりさっき支えてくれた腕は。
「こんな場所で走り出すなんて、まったく何してるのさ」
後ろから聞こえる呆れた声。
やっぱり、レイ。
あの怪我をさせてしまった一件があってから、こういった正式な場で、レイノルドとアリアナは疎遠だった。
どちらからともなく、無視するわけでもなく、なんとなく話しかけられなくなってしまった。
パーティーで、こんなにも近い場所に居るのは、久しぶりだ。
盛装のレイノルドは、いつだって遠い場所に居た。
上手く喋れるだろうか。
声が震えないように。
「レイ。支えてくれたのね。ありがとう」
「いや……」
言いながら、レイノルドがまだ繋がれたままのアルノーとアリアナの手を凝視する。
視線はまたアリアナに注がれた。
「その、」
レイノルドがまた何か言おうとした瞬間、アリアナは、つい、手に力を入れた。
いやでも、レイノルドが視界に入ってしまう。
着飾った服。
整えられたプラチナブロンド。
シャンデリアの眩しい光を反射するペリドットの瞳。
つい、緊張してしまったのだ。
その瞬間、手を繋いでいるアルノーが、アリアナの手を引いた。
くるり、とアルノーの方を向く。
「アリアナ、今日のドレスかわいいね」
「え……。あ、ありがとう」
ふふっと笑う。
確かに、今日のドレスはいつになく力が入っている。
褒められるともちろん嬉しい。
今少し、レイノルドが褒めてくれるんじゃないかと、一瞬期待してしまったくらいには。
けれど、まさかアルノーが褒めてくれるなんてね。
「あっちへ行きたいの?」
「ええ、友達が待ってるの」
「じゃあ、そこまで送るよ」
と、アリアナはレイノルドに気を取られながらもら、アルノーに手を引かれ、歩き出す。
後には、レイノルドだけが残された。
あの手、何!?
それに、名前を呼ぶなんて。
アイツ……っ!
僕だってちゃんと手繋いだ事ないのに。
それに、アリアナを褒めたかったのは僕なのに。
横からかっさらいやがって……!
最初に助けたのはこの僕なのに。
レイノルドは、アリアナに触れた右手に、ぎゅっと力を込めた。
こっそりと、ため息を吐く。
照れて離してしまうんじゃなかった。
いつだって、君を捕まえておきたいのに。
ヒーローは間違いなくレイノルドくんなのですが。なかなか上手くいかないみたいですね。




