45 ドレスを着る日(1)
家族全員が揃った夕食。
テーブルの上には、いつもより多めの食事が並ぶ。
夕食でさえ、全員が揃う事もあまりないので、料理人達が気合いを入れてしまったのだろう。
サウスフィールド公爵が、全員の顔を眺めてから、口を開く。
「この度は、優勝おめでとう、ロドリアス」
「ありがとうございます、お父様」
「アリアナも、よく頑張ったな」
「ありがとうございます」
アカデミーの剣術大会の結果は、新聞にも載る。
そうすると、社交界でも話題になり、婚約の申し込みも多くなる。
ロドリアスは去年優勝してからも引く手数多だったが、二連覇ともなると、より一層人気も上がってしまうはずだ。
この時期の社交シーズンに相まって、パーティーへの招待も増える事だろう。
「色々と煩わしい事が増える前に、うちで祝賀パーティーをやってしまおうと思うんだ」
「あら、いいですね」
「わーい!パーティーだ!」
そんなわけで、急ではあるけれど、サウスフィールド公爵家では、大掛かりなパーティーが催される事となった。
友人達や王家も呼ばれる、かなり大きなパーティーだ。
約1週間後の当日、アリアナはいつになくドキドキしていた。
高等科に上がって、初めてのパーティーだ。
主役はロドリアスだから、そこまで派手にはしないものの、パーティー用に作ったドレスを着るのは楽しみだった。
サナが、アリアナの髪にパールをあしらった髪飾りを着けていく。
時間をかけ、ふんわりとしたライトブルーのドレスで着飾った。
「お綺麗ですよ!アリアナ様!」
サナが、ポンと手を打つ。
「ありがとう」
大きな鏡の前でクルクルと回る。
うん。
確かに、私、綺麗じゃない?
会場へは、アレスとルナと並んで入った。
大きな扉が護衛騎士によって開けられると、大勢の視線に晒される。
落ち着いて。
いつも応援してくれている女の子達の「はわぁ……」という声が、遠くの方で聞こえた。
煌びやかなサウスフィールド公爵家の、大ホール。
何代にもわたって、”王の剣“を務めてきた家だと誇示する、壁にかかった剣。
煌めくシャンデリア。
ダンスパーティーという名目ではないけれど、数人の楽隊が音楽を奏でている。公爵家で抱えている楽隊のようだった。
急だというのに、思った以上に着飾った人が大勢居た。
アレスとルナも、もう11歳と10歳。少し大人になったのか、会場に入ってから微笑みを讃え、大人しくしている。
大勢の人が、アリアナへ挨拶をしに来た。
何度も同じような挨拶をし、段々と飽きてきた頃。
「オーッホッホッホッホ!!!」
大きな高笑いが聞こえ、周りが騒つく。
バッサ!
孔雀かと思うほど立派な扇を拡げ、そこに立っていたのは一人の少女だった。
真っ赤なドレス。縦ロールの髪。
「アリアナ様!お久しぶりですわ!」
それは、確かに剣術大会での試合相手だった。
間違いようもない。あの縦ロール!でかい声!
確か名前は……。
「エカテリーナ様、お久しぶりです」
にっこりと笑う。
周りが騒ついた。
目立つからか、なかなかの有名人らしい。
「エカテリーナ様とアリアナ様が交流してらっしゃるわ」
「ご覧になりました?この間のお二人の試合!」
「交わした剣で通じ合う想いがあるのだわ」
エカテリーナがフッと笑う。
「あなたの剣技、お見事でした。感服致しましたわ」
射抜かれそうな、真摯な瞳。
この人は、本気で剣術をしているんだ。
「ありがとうございます」
交わした剣で通じ合う想いがある、か。確かに少しはあるかもしれないわね。
「また、試合で会えるといいですわね」
バッサ!
孔雀のような扇をはためかせ、エカテリーナは下がって行った。
試合に出て、良かったわ。
エカテリーナの後ろ姿を見て思う。
こんな風に、祝賀パーティーは始まった。
この国では、春から夏にかけては社交シーズンです。
アカデミーもこの社交シーズンに合わせ、春に進級することになります。




