43 君と僕の小さなお茶会
その夜。
一人部屋にいるアリアナの部屋の扉がノックされた。
こんな時間に誰だろう?
このところ、頻繁にライトがやって来るので、この時間は部屋に誰も来ないように言ってある。
何か用事があるに違いない。
「アリアナ様」
サナの声だった。
「どうしたの?」
「ケーキをお持ちしました」
「え?」
きょとん、としていると、サナが確かに小さいながらも丸いケーキをワゴンに載せ、お茶と一緒に持って来た。
「ケーキ?」
白くて丸い、チーズケーキの上には、丸いマスカットが乗っている。
「贈り物ですよ」
にっこりとそう言うと、サナはそのままそのワゴンを置いて下がってしまった。
確かに、手紙が添えられている。
贈り物?
今日?
剣術大会に関係するものかしら。
手紙を取り出してみる。
手紙は、思った以上にあっさりしたもので、
『この夜に。甘いものでも食べよう』
と、それだけが書いてあった。
名前が、ない。
食べてもいいものか呆然としていると、コンコン、と窓がノックされた。
え?
窓を開ける。
「ライト」
ライトの黒い瞳を見上げた。
珍しく、少しにこやかにしている。
まさか。
「こんばんは、アリアナ。ケーキ、届いたみたいだね」
「じゃあこれ、ライトがくれたの?」
「うん」
ライトが、困ったように笑った。
一体どうやってこんなところまでプレゼントとして持って来たの?
サナが持ってくるなんて、素性の知れた物じゃないとおかしいのに。
やっぱり、どこかの貴族である事には違いないのだろうけど。
それも、公爵家にケーキを届けられる人。
ライトってば怪しすぎる。
それに。
「どうして、今日はケーキなの?」
すると、ライトはにっこりと笑って、
「君とケーキでも食べたくなったんだ」
と、静かに言った。
ビクンとする。
なんだか、そんな顔されると……、慰めてくれるためのケーキみたいじゃない。
もし、ライトがあの場に居たのだとしても、ライトが見たのはかなり順調に勝ち進んだ私だ。
落ち込んでるなんて、思うわけないんだ。
そもそも、あそこまで勝ち進める想定でもなかったんだから。
私が、あっけなく負けて落ち込んでること、知ってるわけない。
けど、お祝いにしては、ライトの声は静かだった。
「うん、たまにはいいね。ケーキ」
ケーキを切り分け、お茶を入れた。
いつも通り、向かい合って座る。
「いただきます」
ふと、フォークを伸ばした瞬間、レイノルドの事が頭の中をよぎった。
……?
口に入れたケーキは、甘すぎず、とろけすぎない、真っ白なチーズケーキだ。
「おいし」
「でしょ?」
嬉しそうなライトと目が合う。
なんだ、ライトもけっこうかわいい顔するんだ。
美味しいケーキを食べていると、いろんなことを考えすぎてるんじゃないかと思えてくる。
もっとシンプルなのかもしれない。
私は、剣術で自分なりにいい成績を収めたし。
ライトは、もしかしたら私とケーキを食べたかっただけかも。
ケーキはとっても美味しいし。
ライトもちょっと嬉しそうだし。
こんな時間も悪くないじゃない。
レイノルドくん、ライトでいる時の方が素直だったりするんじゃないでしょうか。




