42 剣術大会(5)
その後は、ただただ大騒ぎをしながら、観戦するだけだった。
ジェイリーが登場し、歓声が上がる。
相手も、大きな歓声。
相手は、卒業後は王宮の近衛騎士団に入るのではないかと言われているなかなか屈強で顔のいい3年生のお兄さんだ。
王族を守る近衛騎士団は、王宮を訪ねる人間を怖がらせないため、出自だけでなく外見の審査もあると言われている。
実際にどうなのかは聞いた事はないけれど、もしかして本当なのではという気持ちを持ってしまうような外見だった。
……ジェイリーだって、公爵家の護衛騎士だし。顔もいいし。負けてないわよ。
静まり返った中、二人の試合が始まった。
ガン!
剣の交じり合う音は、今までになく強く、大きかった。
気のせいかと思ったけれど、観客の殆どがその音に驚いたらしかった。
「……す、ごい」
シシリーの呟きが聞こえた。
確かに、ジェイリーには護衛をやってもらっているけれど、こうして戦うのを見る機会はあまりない。
「すごい、ね」
応えるように呟く。
先に仕掛けたのは、ジェイリーだった。
すごいスピードで飛び掛かっていく。
けれど、その剣には、力が足りなかった。
相手は足を踏み込むと、そのまま、襲いかかってきた剣ごと、前へ押しやった。
ジェイリーは、力で勝てなかった。
そのまま、ジェイリーが後ろへ倒れ込み、試合はそこで終わった。
シシリーの荒い息遣いで、現実に引き戻される。
シシリーの瞳は、涙で潤んでいた。
「すごかった……」
剣術大会は、順当に進んだと言ってよかった。
その名の通り、王家の近衛候補に、公爵家の護衛騎士が負けた。
次期”王の剣“と、近衛候補の3年生が、決勝に残ることになった。
決勝の直前に設けられた休憩時間は、どちらが勝つかで持ちきりだ。
アリアナとシシリーも、カフェのワゴンで買ってきたスナック菓子やドリンクで一息つきながら、ワクワクした瞳を抑えきれずにいた。
「去年もお兄様が勝ったわ。もちろん、今年もそうなるわ」
サクサクとした四角いクッキーが入った小さなバスケットが、アリアナの手の中で揺れた。
クッキーに手を伸ばしたシシリーが、鼻をフンッと鳴らす。
「もちろんよ」
右から手が伸びてきて、四角いクッキーをつまむ。
「そうだな。僕もロドリアスが勝つと思う」
キョトン、とアリアナがレイノルドを見る。
レイがお兄様の話をするなんて。
正直なところ、レイノルドとロドリアスは、下の二人ほど仲がいいわけではない。
二人ともにこやかにはするけれど、言葉に棘があることが多い。特にロドリアスの方が。
ロドリアスは普段穏やかだけれど、レイノルドとはあまり気が合わないようだ。
その視線の意味を感じてか、レイノルドは「フッ」とため息のような息を吐いた。
「実際、ロドリアスの剣のセンスはすごいよ。相手もセンスはあるし、力も強いけど。ロドリアスの、精神から壊してやろうっていうあの意志は、別格だ」
どこか、遠くを見ながら、レイノルドが言う。
「いい事言うじゃない」
言っている間に、手に持っているクッキーやスナック菓子はどんどんなくなり、とうとう決勝戦の時間になった。
この大勢の人達の前で、ロドリアスと、近衛候補の3年生が向かい合う。
そこにいる全員が息を呑む。
ガン、ガン、と練習用の剣がニ度音を立て、三度目の音が聞こえた時、勝負はついた。
え……?
そこにいる人間全てが、呆気に取られた。
「どう動いたの?」
「見えなかった……」
ザワザワとした波が、広がっていく。
目の前にはすでに、負けを認めた近衛候補の3年生が、舞台を降りていくところだった。
「…………」
アリアナとシシリーも、呆気に取られ、そして、弾けるように声をあげた。
「お、お兄様すごいわ」
「きゃー!」
手を取り合って飛び上がる。
そんな風にして、剣術大会は終わった。
レイノルドくんがアリアナと会話できるようになってきましたね!まだ会話してるだけだけど。
頑張ってラブコメしてよね!!




