21 王立アカデミー(3)
扉が開いて、白い制服が見えると、アリアナも正式なお辞儀をした。
最後は、王子であるエリック・エンファウスト。その人だ。
エリックは、みんなの前で立ち止まると、教室を見回した。
慣例で、教室で一番上の位の生徒が、“宣言”をすることになっている。
流石に、王家の人間が挨拶をすることなど滅多にないので、その場にいた全員が息を呑んだ。
「面を上げよ」
通る声が、教室に響いた。
静まり返った教室の中、教室中の全ての視線が、エリックへと注がれる。
「我ら、志を同じくする者である。師の元に集いし我らに、平等なる学びが訪れるよう。この学び舎において、我ら、対等な関係であるとここに宣言する」
宣言をもって、教室の空気がやわらぐのを感じた。
アリアナも、肩の力が抜ける。
立っていた全員がその場で着席した。
エリックがアリアナに気付き、にっこりと微笑む。
アリアナもそれに負けじと微笑み返すと、エリックが当たり前のように、アリアナの隣へ。
隣のシシリーが、こっそりとほくそ笑む気配がした。
「あら、護衛は付けていないの?」
「そうなんだ。レイとアリアナが居るから、学校では要らないと言っておいた。同じ学年で一番信頼できるのは、君達だからね」
「じゃあ、騎士としてエリックを護らないとね」
ふふーんと鼻を鳴らす。
「それに、俺と対等に話してくれるのは、レイとアリアナくらいだからな。君達と一緒に居た方が、友人も出来るというものさ」
そのレイノルドは、といえば、すでにちょっと機嫌が悪そうな顔をしていた。
エリックとアリアナが並んで座るのを見てしまったのだ。
「はいはい。どうどう」
隣のアルノーがニヤつきながら、レイノルドを落ち着かせる。
少しだけ浮き足だった空気の中、初日は滞りなく終わった。
校舎の玄関ホールには、沢山の椅子が置いてある。
座り心地のいい、革張りのソファだ。
その一つに座り、アリアナはほっと息を吐いた。
初日くらいは、お兄様達と帰ろう。
一人、傾きかけた太陽の光が、窓から注ぐのを見た。
本くらい、持ってくればよかったかしら。
ぼんやりと陽の差す廊下を眺める。
まだ友人もいない1年生達は、すでにそれぞれ自分の場所へ帰ってしまったようだ。
その時間にしては、人もまばらな廊下。
ふと、レイノルドが向こうから歩いてくるのが見えた。
「…………」
挨拶を、するべき?
家同士、当主同士ではさほど親密な交流はない。
ルーファウス家にわざわざ行く必要もなければ、ルーファウス家だけを呼ぶようなお茶会を開くこともない。
とはいえ、子供達は仲が良い。
特に歳が同じ幼馴染み同士で、アリアナがレイノルドに怪我を負わせるまで、よくエリックと3人で遊んでいた。
王宮、サウスフィールド家、ルーファウス家。それぞれの家は、もう自分の家と言ってもいいほど自由に行き来していた。
それぞれ、他の兄弟達とも仲はいいはずだ。
王家の子供も、ルーファウス家の子供も、サウスフィールド家の中なら、自由気ままに歩いていても、誰も咎めることはないだろう。
今はもう行くことはないけれど、私は、ルーファウス家をまだ歩く事ができるかしら。
レイノルドの気配が近付いてくる。
……気付かなかった振りをする?
嫌なやつに声をかけて、嫌な気分になるのも、嬉しいことではない。
声を……。
じっとしていると、レイノルドが立ちどまった。
「…………?」
ふと、顔を上げる。
レイノルドが、ツンとした表情で、アリアナを見ていた。
「アリアナ。3年間、よろしくな」
まさか、あっちから声を掛けてくるなんて。
できる限りの笑顔でいないと。
「ええ、よろしくね」
にっこりと、笑う。
ただ、それだけを言うと、レイノルドは通り過ぎて行った。
アリアナは、誰にも見えないように口をへの字に曲げて、誰にも聞こえない声で言った。
「……よろしくね」
生徒50人で、埋まっている席は半分くらいでしょうか。机も大きく、かなり大きな教室です。




