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198 雪道

 すっかり冬だった。


 夜中に降った雪は、朝には足跡がつく程に積もった。

 もう降ってこそいないものの、吐く息は白く、手がかじかむ。


 こんな寒い朝に限って、アリアナは会議棟に寄らなくてはいけない事に気がついた。


 すでに、ロドリアスとジェイリーとは、『また放課後に』と挨拶をして別れてしまった後で、アリアナは一人、薄暗いけれど静かで居心地の良い会議室へ行き、また教室へと向かう。


 外の空気は澄んでいる。


 他に、生徒は見かけない。


 こんな日だから、みんなさっさと教室へ引っ込んでしまったらしい。


 こんな事なら、もっと防寒具をつけてくるんだった。

 マフラーも手袋も今日は持ち合わせていない。


 冷えた手を擦り合わせつつ、高等科の教室へと続く並木道を歩く。


 校舎の曲がり角を曲がった所で、ふと、遠くにプラチナブロンドの髪が揺れるのを見た。


 レイノルド・ルーファウス。


 あっちも一人だ。


 高等科へ上がる前ならば、こんな風に二人きりで鉢合わせるのは嫌だった事だろう。

 きっととても、気まずかったはず。

 けど、今は。


 まだこちらに気づいていないのをいいことに、その姿をじっと眺める。


 遠くから眺めるレイノルドは、白い雪に反射した光でキラキラと輝いている。

 ルーファウスの色を持った紺色の制服は、神秘的とも言えた。


 まるで、精霊か何かみたいだわ。


 こうしてじっと眺められるなら、こんな寒さでも出てきて良かったと言うものだ。


 この白い世界で。

 人のいない世界で。


 この景色を独り占めできるなんて、なんていい朝かしら。


 口を手で覆い、何度目かの息を吐いたその時。


 レイノルドが、顔を上げた。


 一瞬、嬉しそうな顔をしたけれど、次の瞬間には、口をへの字に曲げていた。


 ……もしかして、見ていたのがバレたのかしら。


 じっと見すぎた……?


 スタスタと変わらぬ速さでレイノルドはアリアナの目の前まで来る。

 立ち止まったので、アリアナも、少しそわそわしながらレイノルドの前に立った。


 レイノルドは、口をへの字に曲げたまま、自分の手袋をすぽんと取ると、アリアナの手へはめてやる。


「…………」


 右手も。左手も。


 アリアナの頬はほんのり赤く染まったけれど、きっと寒さのせいにできるだろう。


 レイノルドはそのまま何も言わずに、アリアナの顔を見た。

 ふわふわとした蜂蜜色のブロンドは、朝の空気の中で、少し乱れている。


 レイノルドが、まったくしょうがないなと言わんばかりの顔で笑って、そのまま行ってしまったので、アリアナは一言すら声に出す事もできず、そのままそこで立ち尽くした。


 レイノルドの後ろ姿は、とても綺麗だ。


 アリアナは、ルーファウスの色を纏った手袋の手触りを、そっと感じる。


 誰も見ていない事をいいことに、少しだけ、嬉しそうに笑った。


 精霊様に、手袋を貸してもらったわ。


 なんていい朝かしら。

教室へ行った時なんて言われるか考えながら歩くんでしょうね。

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