表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/240

197 アルノーの憂鬱

「どうしてもダメだった時はさ、」

 ゴンドラから降りる時、アルノーはアリアナの手を取り、笑いかけた。

「俺がパートナーになるから」


「…………」

 アリアナは不可思議な表情を浮かべる。


「そうね。その時は、お願いすると思うわ」


 にこりと笑う。

 アリアナの目には、まだ泣いた後が残っていたけれど、その笑顔はどこか清々しかった。


「焦っても仕方がなかったわ。……すぐに成長できるわけでもないのだから」


 それでもやはり、ちゃんとやらなければという思い込みは、拭えないようだった。



 アルノーはルーファウス邸に戻ると、レイノルドの部屋のソファに、ひとり腰を下ろした。

 ごろりと横になる。


 茶色の革張りソファ。

 目の前には、落ち着いた深い色の天井が見える。

 灯りは緩やかなオレンジ色を暗めにつけていた。


 公爵家の中でも装飾の少ないこの部屋は、レイノルドの部屋だという以外は気に入っている場所だ。


 レイノルドが戻るまで、一人、そこでゆっくりとする。


 レイノルドがアリアナと上手くいったら、俺もお払い箱なんだろうか。


 ふと、そんなわけはないと自分に言い聞かせつつも、何度も頭に上る考えを浮かべる。



 レイノルドは、王都の魔術教室で、俺を見つけた。


 貴族に生まれた俺は、領地を盛り立てる程の何かは、持っていなかった。

 剣の才能は無かった。

 人を操る腹黒になる事も出来なかった。


 ただそんな中、王都に来て、手先が器用な分、魔術の勉強だけは楽しかった。


 特別魔術が好きだったわけじゃない。特別、魔術の才能があるわけでもない。

 レイノルドのような、すごいアイディアは思いつかない。


 けれど、そこそこできる何かがあるのと無いのとでは、世界の見え方はずっと違った。


 そんな中、魔術師の中でもかなり上位に居るあのレイノルド・ルーファウスから、俺を弟子にしたいと申し入れがあったのだ。


 普段は会う事もない。

 この国の中でも有数の魔術師だ。


 俺は、魔術師として認められたんだ。


 魔術師になれるんだ。


 それも師匠は、あのレイノルドだ……!


 喜んだのも束の間。

 打ちのめされたのは、それからほんの数日後だった。



 レイノルドと顔合わせの日。


「よろしく」


「はい、宜しくお願いします」


 アルノーはレイノルドの研究室に呼ばれた。


 研究室の質素な椅子に座り、レイノルドは笑うでもなく貶すでもない、素っ気ない様子でアルノーと話した。

 そして、レイノルドはこう言ったんだ。

「それで……、君は、ジェイリー・アーノルドと仲は良いの?」


「…………え」


 ジェイリーは、サウスフィールド公爵家で護衛をしている、親戚であり友人の一人だ。


 なんだそうか、と思った。


 頭の中が、サッと冷めた。


「はい、幼い頃からの友人の一人です」


 このレイノルド・ルーファウスは、俺の実力を認めたんじゃなかった。

 サウスフィールド家との繋がりが欲しかっただけなんだ。

 所謂、スパイ活動をしてくれる誰かを求めてただけなんだ。


 実際に、ルーファウスとサウスフィールドは、仲は良くないとの噂だった。

 サウスフィールドを出し抜くつもりで……。


 けれど、実際のところはそれより悪かった。

 俺がジェイリーから聞き出すべきなのは、公爵令嬢がどうしているか、ただそれのみだった。


 実力を、認めてもらえたのかと思ったのに。


 しばらく絶望の淵だったのは、言うまでもない。


 とはいえ。



 ガチャリ、と扉が開いて、レイノルドが戻って来る。


「アルノー」

 入って来るなり、ただいまもなしで何の用事なんだか。

「この間の、情報のやり取りの方法で、この陣の……。アルノー?」


 アルノーの返事がないとわかると、レイノルドがもう一度名前を呼んだ。

 部屋の中央まで来ると、天井をぼんやりとを眺めるアルノーを見つけ、呆れた声を出した。


「なんだ、いるじゃないか」


「そりゃいますよっと」


 勢いでソファから起き上がる。



 とはいえ、これはこれでいいと、最近は思えるようになった。


 魔術でも相談して来るようになった、見た目よりもずっとポンコツなこいつの。


 弟子として世話をするのも。


 アリアナとの仲を取り持つのも。


 俺じゃないと出来なかったはずだ。


「しょ〜がねぇなぁ〜」


 なかなか悪くない。


 俺は、魔術師の弟子だ。

そんなわけで、アルノーが主役のお話でした!

今ではさっぱりしているアルノーですが、今でもレイノルドに対する心情はなかなか複雑です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ