195 物思いに耽る(2)
窓の外からは、明るい陽射しが入る。
外には人が行き交う。
不快ではないざわつく声が聞こえる。
気が付けば、爽やかな午後だった。
「けど、手短にね。この後、ダンスの先生を呼んでるの」
「ダンス?」
アルノーがいよいよ訝しげにアリアナを見る。
「ダンスなんて完璧だろ?」
「そんなことないの。今からでも、やっておきたくて」
そう答えるアリアナの目は終始ぐるぐるしていて、アルノーから見ればまさにテンパっているとしか言えない様子だ。
「ダンス、ねぇ。そんなにダンスがしたいならさ、俺がパートナーになってもいいよ」
すると、アリアナは社交的な笑みを浮かべた。
「そのうちね」
アリアナが、紅茶を一口すすった。
その温かさに、ふんわりと空気も緩む。
アルノーが、面白がるような笑みを浮かべる。
「悩みがあるんなら聞くけど?」
「悩み……なんてないわ」
暗い顔でそんな風に言っても、説得力は皆無だろう。
けれど、アリアナは思う。
本当に悩んでるわけじゃない。
ただ、沈んでいるだけ。
「それって……」
アルノーが身を乗り出す。
「うちの主と関係ある?」
そのアルノーの子犬みたいな顔に、罪悪感を煽られる。
もしかしたら、知っているのかもしれない、と思った。レイとあれだけ一緒に居る人だ。
実際、アルノーはレイノルド本人から直接聞いたわけではないけれど、レイノルドがアリアナをパートナーに誘ったらしいというところまでは気付いていた。
アリアナが懇意にしているドレス専門店に遣いをやったのは、他でもないレイノルドなのだから。
「あ、の……」
アリアナの顔が、くしゃっと泣き顔になった。
アルノーがあからさまに慌てる。
アリアナとにこやかにデートをする光景をレイノルドにでも見せて嫉妬心を煽るのは楽しいけれど、泣かせたところを見られるのはヤバい。
……殺されてしまう。
師匠なだけあって、アルノーの魔術では、レイノルドには勝てない。
その上、レイノルドは、アルノーがどのような魔術を使えるのか事細かに知っている。
それも泣かせてしまったのは、アリアナがレイノルドとくっついても、ハーレムに収まっても、一緒にいる予定のあのアリアナだ。
「大丈夫……?」
支える様に手を伸ばす。
まあ、間にテーブルがあるので、実際支えられるわけではないけれど。
「違うの」
顔を逸らしたアリアナが絞り出した言葉は、そんなものだった。
「レイとは、関係ないの。確かにレイからお誘いはあったけれど……。断るつもりだから」
アリアナは、レイノルドのダンスの誘いを『断るつもり』だと、ずっとそう思ってきた。
けれど、そう思う事と、実際に声に出す事は違う。
本当に断ってしまうのだと実感すれば、自ずと涙が溢れた。
アルノーは結婚とかしても恋愛はしなさそうだなぁと思います。