194 物思いに耽る(1)
「アリアナ?」
「………………」
「アリアナ?」
「…………え?」
ふと我に帰ると、アルノーがこちらを覗き込んでいた。
「え……っと」
「どうかした?こんなところで」
「えっと」
言い淀むと、アルノーがきょとんとした顔で覗き込んで来る。
周りを見渡すと、アリアナは、お馴染みの仕立て屋のソファに座っていた。
キラキラと輝くシャンデリア。
据えられたゆったりとした椅子。
トルソーには、何着ものドレスが飾られている。
目の前には、すっかり冷めてしまった紅茶と、明るい色のマカロンが置いてある。
アリアナがお気に入りのドレス専門店だ。
派手すぎず、上品で、けれど目立つ。
とはいえ、キラキラとした素材を使う事も多くて大人っぽすぎない。
そうだった。
仕立てに来ていたのよ。
あの旅行の時から、なんだかこういう事が増えた。
つい、ぼんやりしてしまう。
ドレスを作らないといけないのに。
レイが余計な事言うからよ。
……パートナーにしたいだなんて。
どうせ断るから気にしなくてもいいのだけど。
ちゃんと申し込まれてないし、だからちゃんと断ってないせいで気にしすぎてしまうんだわ。
「アリアナ」
また、アルノーがこちらを覗き込む。
今度は、笑顔で。
「俺とデートしよう」
「え?」
アルノーの顔を、まじまじと見る。
「けど私、今日はドレスを……」
そう。
ドレスを作りに来たのだ。
パーティーで必要になるかもしれないから。
「すぐ必要になるわけじゃないだろ」
「そうだけど」
なんだか押し切られてしまい、店はついてきたメイドに任せて、アルノーについて行く事になった。
「ほら」
腕を差し出されたので、素直に掴まる。
二人で、明るい石畳を踏んだ。
「この近くに、美味しいカフェがあってさ」
「カフェ?」
「そ。チーズケーキが美味しいって評判で」
その瞬間、アリアナがたじろいだ。
「私、ケーキはちょっと」
「え。食欲ない?」
「ううん。ドレスが入らなくなると困るし」
「え……」
アルノーがいよいよアリアナを観察し始めたので、少し慌てる。
「だ、だって、パーティーでは完璧でいたくて」
アルノーはそこで、少し頭を巡らせた。
アルノーだって、公爵令息に仕える人間だ。
さすがに、公爵家が出るようなパーティーは把握している。
けれど、普段のティーパーティー以外で、それほどきちんとしたパーティーなど、今は無いはずなのだ。
賓客が来る話も聞かない。
「まぁまぁ、お茶だけでもいいから」
そう言って、半ば無理やり店に連れて入る。
そんなわけで、ピンクと白を基調としたファンシーなカフェの、窓辺の席で向かい合うことになった。
目の前にはそれぞれ、小さなチーズケーキと、紅く透き通った紅茶が置かれた。
アリアナがおずおずとアルノーの方を見ると、「ん?」と優しい笑みを返してくれる。
少しほっとしながらも、アリアナは困ったような表情を浮かべた。
アルノーって恋愛しなさそうですよね。