193 船の上で(4)
船の上は、騒がしかった。
星空の下でただただ騒がしい。
けれどそんな音も、アリアナの耳を右から左へと流れていった。
目の前がぐるぐるする。
レイは……どういう意味で、そんな事を言ったんだろう。
わからない。
わからない、けど。
私の頭脳を総動員すると分かることも、ある。
エリックと私が、話していた事に言及していた。
『エリックとも、楽しそうだ』……か。
そしてレイは、自分がダンスのパートナーになりたいと言ったのだ。
それは……。
それはつまり。
嫉…………………………。
嫉妬、という事に、なりはしないだろうか。
そう考えてみるだけで、頭がクラクラした。
けど、恋愛対象とは限らない。
まだ、アカデミーに入って、半年と少し。
恋人がいなくてもおかしくはない。
一番仲のいいパートナーになれそうな相手が、私だったとして。
パートナーがいない状況になるのは困るから、先に言っておいたとか。
もしくは。
幼馴染みとして、私がエリックばかりと仲良く見えるから……ヤキモチ……………………を……。
実際のところ、どんな気持ちかは解らない。
きっと、本人に聞かないと、本当のところは解らないだろう。
けど、レイノルドのあの言葉でも、次の機会にレイノルドのパートナーが私になる可能性があるというのは間違いようのない事実らしい、という事はわかる。
次の機会と言えば、学年末パーティーとなるだろう。
アカデミーで催される、所謂、一年間お疲れ様パーティーだ。
正式な場となる学年末パーティーは、アカデミー主催のダンスパーティーで、パートナーが必須なのだ。
必須と言うほど学生達にペアになる事を押しつけているのだから、恋人でも婚約者でもない相手がパートナーになる事も十分あり得る事は、誰もがわかっている。
けど。
正式な場に連れていく初めてのパートナーで、それがアカデミー生達の前でお披露目されるパートナーだという事実は、学生達の間で噂にならないはずがなかった。
パートナーという位置に収まっている限り、その現実は学生達の視線となって突き刺さる。
もし、そのお相手の事を好きな人がいたなら、泣きながら引っ叩かれても仕方がない立場であるという事だ。
アリアナの相手は、中等科の3年間、ずっとロドリアスだった。
けれど、ロドリアスも流石にもう高等科2年。
このまま妹とばかり踊ってもいられないだろう。
確かに、アリアナにもパートナーをお願いできる相手はいない。
いつもなら兄の次にお願いするのはジェイリーだけれど、ジェイリーだって高等科2年。
護衛対象と噂になってしまえば、結婚が遠ざかる。
かといって……。
レイは……。
私でいいなんて、本気で思ってるのかしら。
アリアナは、一つため息を吐く。
どちらにしろ、断る準備をしておかなくちゃ。
そんな風に思い悩むアリアナなのでした。