191 船の上で(2)
アリアナが、その船上の雰囲気に圧倒されてキョロキョロと辺りを見回した。
フリードが一緒になって歌い出す。
歌詞など知っているわけじゃないだろうに。
こういうところが、女子人気の秘訣だろうか。
こうして仲良くなった後でも、相変わらず何を考えているのかわからない人だ。
隣に居たレイノルドと目が合い、困った顔で笑い合う。
満腹になってもまだまだ料理が出てくるのを眺めているところで、バロンとの話し合いが始まる。
「ねえ、バロン。お願いがあるのだけど」
「おおおう!まかせとけぇ!」
すっかり酒が入り真っ赤になっている。
酒が入っているからか、どんな依頼でも受けてくれそうな雰囲気だ。
確かに、バロンと交渉をする時には、宴会の合間にするのが正解のようだ。
「実は、運んで欲しいものがあるの」
と、ジル・ディールから預かっていた生地のサンプルを渡す。
「ヴァドル王国から、この生地を運んで欲しいの」
「おぉ~。ヴァドル王国なら近い。それに、ちょうど今月行く予定があるぞ」
「あら、ありがとう、バロン!」
アリアナが満面の笑みでお礼を言うと、バロンの口ひげが嬉しそうによじれた。
それからは、アリアナ、エリック、ドラーグ、フリードと、そしてジル・ディールが、バロンを囲んで話し合いをする。
ドラーグは運搬時の品物の管理に関して、フリードは生地の品質に関してのアドバイザーだ。
他国との交易に関することなので、エリックも会議にまざった。
「それで、この人を連れていって欲しいの」
ジル・ディールが頭を下げる。
「おぉ~!!さっきの笛男じゃないか!素晴らしい笛だったぞ」
バロンの声は、まわりが騒がしいのと、酔っているせいもありかなり大きい。
がばっと頭を上げたジル・ディールも、酔っているせいで動きが大仰だ。
「どうぞよろしく!!」
他国の、とはいえ王家の人間がそこまで酔っぱらってしまっていて、なにかやらかすんじゃないかと少し不安になる。
とはいえ。
バロンとジル・ディールが肩を組んで歌い出したところを見ると、二人の仲は上々のようだ。
肩を組んでいない方の手で、二人は木製のジョッキを掲げている。
たっぷりと入った酒が、ジャブジャブと揺れる。
時々、「ヘイ!」だの「ヨー!」だの言いながら、二人はジョッキを打ちつけ合った。
その度に、ボコン!なんていう鈍い音が聞こえた。
……これはこれで、いい人付き合いなのかもしれないわね。
アリアナが、苦笑する。
海からの風が、アリアナの髪を靡かせた。
船上にペタリと座り込んだアリアナの、その宴会の熱気で火照った頬には、ちょうどいい風だった。
少しぼんやりしたまま、周りの喧騒の事を思うアリアナの横顔を、レイノルドが眺める。
その愛しい横顔を遠くから眺めるレイノルドは、少しだけ切ない気持ちになった。
楽しく踊る二人なのでした〜!