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189 視界は全て海ばかり(3)

「それで、今回、このまま一度国に帰ろうかと思って」

 ジル・ディールがまた「えへへ」と申し訳なさそうに笑いながら言う。


「…………?国に?」


 このまま?

 アカデミーの教師をやっているジル・ディールが、このまま帰ってしまって大丈夫なんだろうか。

 この人、アカデミーにちゃんと許可取ってるのかしら。


「ああ。心配しなくてもすぐ帰ってくるって!」

 そう言いながら、パチン!とウィンクする。


 ……本当に調子のいい人ね……。


「……アカデミーの方に問題がないなら、それで構わないわ」


「ああ。工場に直接行って、話をつけてくるよ。工場とお前のところの商人を引き合わせないといけないしな」


 それは、予想外の言葉だった。


 なんだかふざけた人だから、あまり信用できるものでもないんじゃないかと思っていた。

 けれど、ジル・ディールは想像以上に義理堅い人間だ。


 でも確かに、一人きりで放浪する人間だ。

 きっと、ただの悪人では務まらない。

 まあ、多分、ただの善人でも務まらないのだろう。


「……私達のために、わざわざ国に帰ってくれるのね」


 アリアナがにっこりと笑った。

 少しだけ、心を許した顔だ。


 ジル・ディールが、また、イタズラばかりする小学生男子が猫を被った時の様に、「へへっ」と笑った。


 小さく風が吹く。

 髪がバサバサになってしまいそうな海辺の風だ。


 そこで、アリアナは、もう一つ、このジル・ディールを見放しきれない理由を思いついた。


 そうだ、この人は、かつての私に似ている。


 つまらない大人になんてなりたくないと言っていた、昔の左門も、同じ様な笑顔をする事があった。


 ジル・ディールの笑顔は、なんだか親近感が湧いて、見放すほどではないと思わせた。


 しょうがないな……。


 一つため息を吐いて、景色を眺める。

 青い空。

 帆を開いて、どこかの船が港から出ていくところが見えた。

 帆が風を受け、ゆっくりと港を出て行く。


「一曲いいですか」


 同じ光景を見ていたジル・ディールが、笛を取り出す。


「……ええ、いいわよ」


 アリアナのその返事を聞いて、ひとつ息を吸うと、ジル・ディールの纏う空気が変わった。

 風一つ吹かない様な、何の音もしない様な、そんな空気だ。


 静寂の中、フィ〜……と鳴らされる音は、この空の何処までも届きそうな音だった。

 けれど、不快ではない。


 不思議な音だ。


 いつになく静かな音楽が流れた。

 まるで、遠くにいる人に届ける様な、船出を見送る様な、そんな曲だった。


 隣のレイノルドが、ため息を吐くように息を吐いた。


 その顔を見上げる。


 呆れたような顔をしているのは、ジル・ディールにだろうか。それとも私に?


 困ったような笑顔をレイノルドに向けると、レイノルドもその呆れたような顔のままで笑った。

ジル・ディールはけっこう民族衣装みたいなの着てそうだよね。

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