187 視界は全て海ばかり(1)
それから一行は、昼になる前に馬車に乗った。
ジル・ディールと話す事があると、ドラーグとフリードは3人で一つの馬車に乗った。
するとアリアナが、エリックとレイノルドにも甘い餅を食べて欲しいと、3人で馬車に乗り、残りの一台はシシリーとアイリ、それにアルノーが乗った。
アリアナがエリックの隣に収まったものだから、レイノルドはむっとしたけれど、それではアリアナは捕まえられないと持ち直して、その甘い餅に向き直った。
とはいえ、アリアナとエリックの距離は触れてしまいそうなほど近くて。
それに、
「これ……もしかして、アリアナが前居た所の……?」
「うん。そっくりな食べ物があって」
と、お互い通じるものがあるようで、あまり居心地のいいものではない。
二人との距離が詰められるように、これから頑張らないとね……。
餅を食べて、レイノルドが、
「あま……」
と呟くのを聞いて、アリアナは嬉しくなった。
「思った以上に甘いでしょ?」
「そうだね」
「ふふっ」とレイノルドが笑う。
アリアナは、その笑顔に一瞬だけ見惚れる。
そしてすぐに目を逸らした。
こんなところで、ぼんやりするわけにいかない。
3人しかいない場所で、見ていた事なんかがバレたら……。
……また、避けられるかもしれない。
同じ馬車に乗れるのが嬉しくて。
けれど隣は恥ずかしいので、思わず正面に座った。
正面の方が、顔だってよく見える。
けど。
必要以上に見るわけにはいかないから。
つい、助けを求めるようにエリックの方を見てしまう。
エリックが訳知り顔で優しく見てくるので、それはそれで少し居心地悪く感じながら、アリアナは楽しそうに見えるように会話をした。
そんな風に、一行を乗せた馬車が走る。
「潮の匂いがしてきたわね」
「ああ」
窓の外が賑やかになってくる。
馬車が増え、人が増え、石畳の道路に入ると、そこはもう町だった。
流石に商人が出入りする国の入り口なだけあって、騒がしい。
昨夜泊まった町と比べ、お祭り感は減り、その分、働く屈強な人達が増える。
外国の人も多いようで、雰囲気や服装の違う人々が、色々な訛りで喋っている。
この周辺の国は、同じ公用語を使う。
けれど、言葉がその土地に合ったものになっていくように、それぞれイントネーションや使い方が少しずつ違っていた。
今日泊まる場所は、宿ではなく、サウスフィールド家の別荘だ。
街中にありそれほど大きくはないけれど、執事とメイド3人、それに料理人が一人常駐している。
泊まる部屋はどこの部屋からも海が見えた。
冬に差し掛かった時期だったけれど、晴れた空の下の海は、まだ冷たい空気を纏ってはいない。
明るく、青々とした海だった。
アリアナにとっては何度も見ている海だったけれど、ここに来れば景色を味わわずにはいられない。
「きれい」
アリアナは、一人呟いた。
さて、そんなわけで今回の旅の目的地です。