185 珍しい買い物(4)
魔道具屋へ入ると、珍しい魔道具が揃っていた。
レイノルドは、片っ端から、ひとつひとつ見ていく。
なんと言っても、国外からの珍しい物まで見られる可能性がある場所だ。
見たことのない物は、全て買って解体でも解読でもなんでもしてみたい。
まあ、いくら金はあると言っても、一つで領地一つ分買い上げられる程の金額のものもあれば、店主との信頼や交渉を経てしか買えないようなものも多い。
中には、持っている人間の情報を製作者に送るような悪質のものもあるとなると、そう簡単にはいかないのが現実だ。
レイノルドは、小さな金属の魔道具に目を留め、じっと確認する。
手に取った小さな金属製の魔道具。
カチャカチャと動く部分の裏側に、陣が描いてある。
これは……それほど難しいものではないけれど、随分小さな陣だ。
レイノルドが集中していると、
「レイは、そういうものが気になるのね」
と、すぐ耳元で声がしたものだから、
「う……わ……っ」
と変な声が出た。
耳に吐息がかかるほどの距離からの甘い声。
その声には聞き覚えがある。
どれだけこの距離で聞きたいと思ったことか。
けど、それは決して今ではない。
すぐ横を見ると、アリアナが、ちょっと嬉しそうな顔でこちらを見ていた。
驚かす事が成功して、よほど嬉しいのだろう。
悪かったね、変な声出して。
アリアナは意外と、恥ずかしがらない。
ちびっ子から元の大きさに戻った時も、照れる様子もなかった。
……僕はそこら辺の石としか思われていないのでは?
それでも、少し前よりはマシなんだろうと思うと、落ち込む。
「アリアナ、よくここがわかったね」
すると、アリアナはにっこりと笑った。
「通りかかったところを、アルノーが見つけてくれたのよ」
まったく。
アルノーの事でそんな嬉しそうな顔をするなんて。
きっとまた、アルノーをハーレムに入れる為に仲良くなれて嬉しいとか、思ってるんだろう。
そんな笑顔を他人に見せるくらいなら、部屋に閉じ込めてしまいたい。
誰にも見えない所へ。
そうじゃないと、アルノーだってエリックだって、きっとアリアナを好きになってしまう。
アルノーも最近は、僕から離れてアリアナのそばにいる事も多いくらいだから。
「これはどういうものなの?」
と聞いてくる無邪気な顔。
無邪気な距離。
なんでそんなに無防備なの。
「ほら、ここに陣が描いてあってさ。これでこの部分がカチャカチャ動くんだ。つまり、ぬいぐるみの顔の部分に仕込むと、こう、口が上下に動いて……」
レイノルドが指で開け閉めを示してパタパタするところを、アリアナがじっと見る。
可愛いから、やっぱり閉じ込めておきたい。
アリアナがこちらを見上げると、金色の糸のような髪が揺れ、ヴァイオレットの瞳が柔らかく揺れる。
子供の頃と変わらない顔するんだから。
なんでこんなに、君といる時の空気は気持ちがいいんだろうね。
今すぐここで、抱き締めてしまいたい。
アリアナは、レイノルドと話せる事が嬉しいんですけどね。
このままだと通じないでしょうね〜。