184 珍しい買い物(3)
市場で賑わう大通りが表なら、魔術師街は、裏にあると言っていい。
魔術師街は、魔術師が必要な店が寄り集まってできた町の一角だ。
通りこそ細いが、その通りの両端には、怪しげな店がいくつも連なっている。
薬草の店、魔道具の店、はたまた、呪いや占いやといった本物かどうかも怪しい店も軒を連ねている。
魔術師向けのマントを着込んでフードまでしっかり被った者も多く、怪しげな雰囲気に一役買っていた。
とはいえ、顔を見られると困るような怪しげな魔術を使う人達だからフードを被っているのではない。
ただ、冬の入口に差し掛かった今、極度のインドア派ばかりの魔術師達には、外の空気は寒いのだ。
レイノルドは、付き人のアルノー、興味本位でついて来たエリックに、今回エリックのお守りをする事になったフリードと共に魔術師街へ来ていた。
エリックと並んで歩き、薄暗い店の中を覗いていく。
「なんでついて来たの」
レイノルドが、詰まらなそうにそう聞いた。
「魔道具を見ておくのは、大事だと思ったからだよ」
「……そうじゃなくて。この旅行」
いつの間にか当たり前のようについて来ていたのだ。
『ハローハーモニー』のメンバーでもないのに。
文化祭に個人で参加していて、暇になった片付けあたりからは確かにアリアナの周りにいる事は多かった。
それにしたって。
まさか旅行まで。
「そうだな」
エリックが、明るい表情で言う。
「アリアナが居るからかな」
アリアナが居るから。
確かにエリックは、いつだってアリアナのそばに居た。
アカデミーでの授業だって、アリアナの隣で受けているくらいだ。
レイノルドと共にアリアナの幼馴染みで、レイノルドとは違い、ずっとアリアナのそばにいた人物。
今でも時々、エリックとアリアナは二人で会っているはずだった。
それは、始めは幼馴染みの会だったはずのものだ。
けれど、レイノルドが会わなくなってから、エリックとアリアナの二人でお茶をする会になったらしい。
もう、そこにレイノルドの席はない。
アリアナとエリックを引き離したいとは思わない。
どれだけ仲が良くても。
アリアナがエリックを大事に思っているように、レイノルドも幼馴染みであるエリックを大事に思っている。
アリアナが一人にならないよう、そばにいてくれた人物でもある。
もし、そのせいで、二人がくっついてしまったとしても。
二人がどんな特別な感情を育てていたとしても。
どんな秘密があったとしても。
レイノルドは、口を挟むつもりも、邪魔をするつもりもなかった。
ただ、エリックのその気持ちに、特別なものがないよう祈るだけだ。
ただ、今、エリックよりもアリアナの近くにいられるよう、自分が頑張るだけ。
もう、アリアナを手放さなくてもいいように。
レイノルドくんの希望も虚しく、エリックはアリアナ好きなわけですがね……。