183 珍しい買い物(2)
ぱくり。
「…………!」
全員が、恐る恐る食べる。
と、途端にみんなの顔が、ふわっと明るくなる。
これは……!確かにお餅だわ。
思っていた黒蜜とは違うものだった。
けど、確かにそれは甘く、トロトロとしていた。
どちらかといえば、それは、きなこ餅みたいな味で。
そしてそれは、どこか駄菓子屋で買ったお菓子のような味をしていた。
「美味しいわね」
それは、確かに美味しかった。
そして、アリアナにとっては、どこか懐かしい味がした。
正直なところ、前世の頃の味覚はあまり覚えていない。
味覚なんていうあやふやなものは、時間と共に消えてしまった。
けれど、分かる。思い出せる。
これは、なんだか懐かしい味をしている。
まわりを見ると、どうやらみんな、満足したようだった。
特に、アイリの口には合ったようで、にこにこと満面の笑みになっていた。
そんな風に騒いでいると、その騒ぎを見つけたらしく、ドラーグが近くに寄ってきた。
「楽しそうだな」
と、寄っていった先には、当たり前のようにアイリが居る。
「はい!」
と顔を上げたアイリは、お餅がよほど気に入ったのか、まだ満面の笑みを保っていた。
「これ、美味しいんですよ!」
「へぇ、どれどれ」
と言った瞬間、イチャイチャの雰囲気を察してアリアナとシシリーの顔が、一瞬にして変わった。
その顔はまさに"シリアス"を絵に描いたような顔だ。
アイリはアイリで、
「はい、どうぞ」
と臆面もなくお餅らしきものを掴んだお箸をそのままドラーグの方へ持っていく。
「あー。……ああ、確かに旨いな」
ドラーグが、真顔で丁寧に餅を味わう。
アイリは、それをにこにこと花のように眺めた。
その眩しさに当てられ、アリアナとシシリーがシリアス顔のまま顔を見合わせた。
口をパクパクさせて、声を出さないまま叫んだ。
『この二人、もう結婚してるとかじゃないのよね!?』
『私が聞いてる話では付き合ってもないはずだけど!?』
『じゃあこの空気は何!?新婚さんを通り越して熟年夫婦のようだけど!?』
『私も、“どきどききゃっ!”みたいなのを見せられるのかと思ったら、もっと格上だったわ!!』
そんなこんなで一同は、一息ついて落ち着いてくると、レイノルド達のことを思い出した。
「まだ、魔術師街にいるかしら」
「こっちは一通り買ったし、魔術師街というのも見てみたいわ」
そんなわけで、一同は、ぞろぞろとレイノルドを探しつつ、魔術師街に赴くことになった。
アリアナの隣で、シシリーがニヤついた。
「魔道具に興奮して、ルーファウスがきゃっきゃしてたらどうする~?」
「どうもしないわよ」
アリアナがツンとした顔をする。
魔道具に目をキラキラさせてあっちこっち動いてるレイノルドね……。
でも確かにちょっとそんなレイノルドは……。
「かわいいかもよ?」
「…………関係ないわよ」
そんな恋愛模様なのでした。