182 珍しい買い物(1)
次の日は、みんな早くから起き出した。
丁度昨日の夜この町に着いた商団が、朝市に商品を出すはずだった。
朝市では、何か珍しいものが見つかるはずだ。
「じゃっ」
と言って、最初に出て行ったのはドラーグだった。
流石、将来のタイリウ商会を率いる人間とでも言うべきか。
これほどまでにやる気に満ちたドラーグを見たのは、初めてだ。
騎士3人と、なぜかジル・ディールを連れて行った。
同じ馬車に乗っていただけあって、仲良くなったのだろうか。
「テンション高いですねー」
そう言いながら「あははっ」と笑うアイリも、なかなかにテンションが高い。
レイノルドとアルノーが魔術師街に行くと言うので、エリックとフリードもそれについて行った。
「じゃあ、私達も出かけましょうか」
「そうね」
残った女子3人とジェイリー、それに騎士二人で市場を見に行くこととなった。
シシリーが思ったより乗り気なのは、メイク道具の問屋が目当てだからだろう。
3人はメイク道具に、生地問屋、それに面白そうな食料を買い込み、公園のテーブルで休憩することになった。
「私、テーブルと椅子拭いてきますね!」
こんな時に威勢がいいのはアイリだ。
家で動きなれているのか、テキパキとこなしていく。
買ったものはシシリーとジェイリーが持ってしまっているので、アリアナは手持ちぶさたになった。
キョロキョロと見渡す。
その公園は、問屋街に沿って細長く広がる草原のようなところだった。
テーブルやベンチが所々にあり、休憩所のような目的で使われる場所のようだ。
時々、市場がはみ出してきたようなワゴンの店が点在していた。
テーブルが整い、こちらを見たアイリとシシリーに、アリアナは、ワゴンで買ってきたジュースを恭しく差し出した。
「かわいいお嬢さんたち。どうもありがとう」
一人ずつ、ジュースを渡していく。
少し上目遣いの視線で丁寧に渡すと、二人とも、頬を赤く染めた。
「ア、アリアナ……ありがと……」
「アリアナ様……。一生ついていきます……」
生まれながらに王子様なエリックや、社交界の貴公子フリードには敵わないものの、女の子を楽しませる事に悪い気はしない。
ジェイリーを含む騎士達にジュースを渡した時は、ドヤ顔を向けてあげた。
どうだ見たか。
ジェイリーではこうはいくまい。
「ふふん」
「お嬢様、いい顔ですね」
ジェイリーが珍しく、苦笑気味の顔をした。
「なかなかでしょう?」
それから4人でテーブルを囲む。
4人の前にあるのは、謎のデザートだ。
アリアナの喉が、ゴクリと音を立てた。
テイクアウトされたそれは、蓋付きの器に入っていた。
丸いお餅らしきものに黒い蜜らしきものがかかっている。
……店員さんもスイーツだと言っていたし、これは……あんみつとか、そういう類いのものでは?
「わぁ、トロトロですね」
気になって、アリアナは人数分買ってきたのだ。
転生してくる人は今までにも居たみたいだし。
そこに日本人が居た可能性はある。
食べるためについているのもどう見てもお箸だし。
「じゃあ、いくわよ」
アリアナと他3人は、お箸を持ち、器と向きあった。
グループに分かれると、やはり女子3人とアリアナの護衛であるジェイリーで1グループになるようです。