180 港へ(2)
「夜はこの人数で宿に泊まるんですか?」
「そうよ。そろそろ騎士に先に行ってもらって、宿を取って貰いましょう」
「お……お部屋が1つしか取れなかったら、どうするんですか……」
アイリは、本気で心配しているようだった。
「それならエリックが優先でしょ。次に……レイノルドかしら。公爵令息だし、護衛としても優秀だし」
そこで、エリックが「フッ」と笑う。
「女の子達を外に残して部屋に篭ってられないよ」
「じゃあ、アリアナ様ですね」
「じゃあアリアナ、二人で寝ようか」
エリックがニッコリ笑うと、レイノルドとジェイリーが、
「ダメに決まってるでしょ」
「ダメですよ」
と横槍を入れる。
「じゃあ、2人きりにならないように私がその床で寝ます」
と威勢のいい事を言うのはアイリ。
「私もアリアナについて行くわ」
と、シシリーも決意の目を向けた。
「じゃあ、俺もみんなを守るのに床で寝ます」
ジェイリーが立ち上がる。
「みんなが床で寝るのに、私がベッドを使えるわけないでしょう」
アリアナが呆れた声を出した。
「じゃあ、僕も床で寝るよ」
レイノルドがそう言ったので、アルノーも自動的に床で寝る事になる。
「俺もか……」
「みんなが居るなら俺も床で寝たいな」
エリックがニッコリと笑うと、
「僕も一緒がいいな」
と、フリードもニッコリと笑う。
ドラーグが呆れて、
「全員かよ」
と笑った。
「ボクも入れて欲しいな……」
ジル・ディールがあからさまにしょんぼりとした。
長閑な晴れた空の下を、馬車はゆるゆると走った。
夕方、暗くなる前には、泊まるための町へ辿り着いた。
「賑やかですね!」
アイリがワクワクと嬉しそうな声を出す。
「そうね。ここは、街道が交差している所だから、町でも大きい方なの。大きな市場が出ていて、山の方の珍しいものも手に入るわ」
アリアナも今日はつられてテンションが上がる。
宿も、貸切状態にしながらも、宿を一軒借りる事ができた。
「なかなかいいお部屋ね!」
シシリーがはしゃぐ。
確かに、王家や公爵家を泊めるだけあって、なかなかきれいな宿だ。
「じゃあ、俺も……」
ジェイリーが堂々とアリアナについて部屋に入っていく。
「ちょっと、ジェイリー!ここは女子部屋!」
アリアナがジェイリーを部屋の外へ押しやった。
「ですよね〜……。でもお嬢様が心配で。外に立つわけにもいかないし」
「大丈夫だから、エリックでも守ってあげてて」
アリアナが、ジェイリーを部屋に入れまいと仁王立ちになる。
そこへ、エリックとアルノーがジェイリーを引き取りに来た。
すぐに、ジェイリーの腕を掴んで、2つ隣の部屋へと押し入れられる。
絶望の顔をして引きずられて行ってしまった。
……なんだか、魔物に食べられる寸前の人のようだったわ……。
「ジェイリーったら心配性なんだから。今日は宿も貸切だし、あんなに心配することないのに」
近くにいたレイノルドが苦笑した。
それは、そんなちょっとした日常風景だった。
これだけ人が居ると、賑やかでいいですね!