179 港へ(1)
「ということで、先生の伝手を使って、布を買う事になりました」
午後の会議室。
緩やかな陽が差している中、『ハローハーモニー』の部屋の人口密度は高かった。
『ハローハーモニー』の4人に、布探しを手伝っていたシシリーも居れば、レイノルドも当たり前のように居た。
そして、ジル・ディールが見本の布を持ち、やって来ていた。
「これが手に入るのね」
「確かに、これなら遜色ないわ」
シシリーも手触りを確かめながらそう言った。
「それはいいけど……輸送はどうするんだ?あまり長距離馬車は出せないぞ?」
「海から回れるなら、私に心当たりがあるわ」
サウスフィールド公爵家の知人に、船を持っている人が居る。
アリアナも、よく知る人物だ。
「港なら工場から近いよ」
「港か……、ここから近くもないが。港ならうちの商会から馬を回せる」
「じゃあ、船の調達をしに、港へ行きましょう!」
そんなわけで、アリアナ御一行は、馬車で2日ほどかかる港町、スカイフラッグへ向かう事になった。
「みんなで来なくても良かったのに……」
アリアナが呟くけれど、
「そんなわけにはいかないでしょう」
と言うのはジェイリーだ。
「まあ、対面してこその誠意というものもあるからな」
というのは、商人の息子であるドラーグだ。
結果、荷物用のタイリウ商会の馬車に、ドラーグ、ジル・ディール。
サウスフィールド公爵家の馬車に、アリアナ、アイリ、シシリー、そして御者台にジェイリー。
ルーファウス公爵家の馬車に、レイノルド、アルノー、エリック、フリードの4人。
そんな振り分けで、馬車に乗る事になった。
「パレードみたいになったらどうしようかと思ったわ」
馬車の窓から外を眺めながら、シシリーが笑った。
「フリード様がエリックの付き人を請け負ってくれたものね。レイノルドも居るから、騎士も馬車も最小限で済んだわ」
「王家の真っ白な馬車で走ったら、目立ちますもんねぇ」
王都から港へ向かう道には、所々に宿場町のような町はあるものの、山はほとんど見えず、見えるのは空と平原ばかりだ。
比較的平和なこの国にも、街道沿いはあまり気を抜くわけにもいかないのだけれど。
実際、馬で騎士を張り付けるわけにもいかず、御者に扮した騎士を、馬車に二人ずつ、荷台に二人乗せるので精一杯だった。
アイリが嬉しそうに、
「焚き火でお肉焼いたりするわけじゃないんですね」
と明るく言う。
どう見てもウキウキと楽しそうだ。
「そうね。途中に宿や食堂が沢山あるから」
そうはいっても10人と騎士が7人というなかなかの大所帯で、出立した日の昼食は、平原に大きなシートをひいての食事になった。
食事自体は近くの食堂で買ったものなので、チキンソテーのお皿に、サラダに、パンに、となかなか豪華ではあった。
ジル・ディールがここに居るのはなんだか違和感があるけど。
まあ、こういう大勢の旅行も悪くないわね。
そんなこんなで、一行の港へ向かう旅行は始まった。
そんなこんなで大所帯の旅行の始まりです。
馬車に騎士2人ずつは、ジェイリーも入れて2人ずつ。ジェイリー以外の騎士は7人です。