178 本気にして欲しいんだけど
翌日の夜、ライトはアリアナの部屋に居た。
「あら、今日はなんだか疲れているのね」
「……ああ、昨日夜遅くまで用事があって」
ライトが苦笑してみせる。
「それに、疲れているというなら、君もだよね」
「あ〜〜〜」
アリアナは頬に手を当て、困った顔を作る。
「実は、求婚されてしまったの」
「そうなんだ……」
出来るだけ、なんでもない顔を作る。
けれど、ライトがついここまで来てしまった理由は……、もちろんアレスの勉強を仕方なく翌日にやる事にしたのもあるけれど、何より、あのプロポーズの事をどう思っているのか気になった為だった。
……まさか、あの王弟と結婚とはならないとは思うけれど、相手は結婚相手を募集中のお年頃の公爵令嬢だ。どうなるかはわからない。
「一人は、ジル・ディールっていう学校の先生で、ヴァドル王国の王弟なの。もう一人は、レイノルド・ルーファウス。公爵家の跡取りよ」
「それで……どっちと結婚するか迷ってるの?」
そう尋ねると、アリアナはキョトンとした顔をこちらに向けた。
「あはは」
そう笑うと、アリアナは、
「まさか。しないわよ」
と言ってのけた。
「どうして?婚約者を探さないといけない年頃でしょ?」
「確かに、そう。両親も、昨日は、二人を残して何か話をしたみたいだった。何か気にしてるのかしらね。……そうなんだけど……でも。あの二人は本気じゃないと思うし。結婚する気は、あんまりないの」
……やっぱり、本気じゃないと取られている。
あの状況じゃ仕方ないか。
けど。
……ちょっとは本気にして欲しかったんだけど?
まあ、本人に正式にプロポーズして、サウスフィールド公爵家に正式に申し込む必要はあるだろうから、本気にしてもらうのはそれからだ。
「じゃあ、結婚する気はないって?」
「私には、ハーレムがあるから!!」
「うん。知ってるけど」
アリアナは、困ったような顔で笑う。
冷めた紅茶を必死で握りしめて、どこか表情が固くなる。
「私……好きな人と恋人同士になるって、出来なさそうだから。……好きな人とじゃないと、結婚も、できそうになくて。だから……」
アリアナのどこか泣きそうだけれど、決心した顔。
「だから……!イケメンを侍らせるハーレムを作って、一緒に住む事にしたの」
レイノルドは、若干、頭が真っ白になるのを感じた。
「これも私の、大事な夢だから」
「夢……」
アリアナにとっては、ハーレムを作る事がそんなに大事なんだな。
そんな夢なら、応援はしたい、けど。それだと、アリアナは僕から離れてしまう。
……エリックやアルノーは、一生アリアナのそばに、居られるのに?
「もし、プロポーズが本気でも?」
「そんなの……あり得ないもの」
「もし」
「もし……。もし、本気だったら」
自分でそう言うと、やはりまた悲しそうな顔になって、そして戸惑うように赤くなった。
……やっぱり、気にしてる。
けど、その戸惑う相手が、僕とは限らないよね。
誰の言葉が心に届くのかなんて、聞くに聞けなくて、なんだか寂しくなってしまった。
ここで堂々と告白すればハッピーエンドになりそうですけどね!?