表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/240

176 喜ばしくない鬼ごっこ(6)

「じゃあ、掴まってください、先生」

 支えるように腕を出す。


「……君は……」


 ジェイリーを始めとした周りの騎士達が、俺も俺もと手を差し出した。

 アリアナにジル・ディールが運べるわけもなく、仕方がないので猫を抱き抱える。

 思ったより小さな、ぐったりとしたその猫は、泥だらけで切り傷だらけだけれど、思ったほど弱っているわけでもなく伸ばす足は力強かった。

 足を触ると、やはり血で滑る。

 サウスフィールドの医師、オリバーに猫を見せると、ため息を吐かれた。


「お嬢様、猫を助けるのもいいですが、無茶はしないでくださいね」


 オリバーには、これまで、何度もお世話になってきた。

 事件や事故に巻き込まれ、青ざめさせることもしばしばだ。


 ともかく、起きてはいるけれどすっかりぐったりしている猫を洗い、怪我を手当てし、膝に乗せて猫用のミルクを飲ませる頃には、ジル・ディールもすっかり客室のベッドに寝かされていた。


 ジル・ディールの前で、椅子に座ったアリアナの膝は、猫が占拠し、すぐ隣にはレイノルドが座っていた。

 レイノルドは、アレスの勉強のためにサウスフィールド家を訪ねてきていたが、それどころではないとアレスの方は自習にし、自宅のような態度でそこに居た。


 すっかり目を覚ましたジル・ディールは、居心地の悪そうな顔で、サウスフィールド家の医師見習いの一人にお世話されていた。


「ごめん、アリアナさん」


 ジル・ディールは、申し訳なさそうに口を開く。

 レイノルドの視線が、スッと冷たくなった。


「ボクは、君を誤解していたみたいだ」


「……誤解?」


「子供の頃、命を狙われて、貧民街に匿われたことがあってね」


 語りだしたわ……。

 仕方なくアリアナは、猫をいじりながら話を聞く顔をする。


「その時から、貧民を助ける事に尽力しているんだけど……あまり評判はよくなくてね。貧民なんて助けても、メリットはないって。奴隷のように扱えないなら、むしろ減らすべきだって、そう言うんだ。それで、地位を捨てることにしたんだ。自由の身になって、世界を見ようと思って。その方が、出来る事も多いし。……偉そうに人民を差別する人間に嫌気がさしてね」

 ジル・ディールは話を続ける。レイノルドはすっかり冷めた顔のままだ。


「失礼ながら君の、パーティーの時の姿に……そういうタイプの……金の力で男を買って奴隷のように扱うお嬢さんなのかと思ったよ。それも、顔のいい金持ちや貴族ばかり」


「…………」


 金では買ってないわよ……。


「そんな人間はちょっと嫌いでね。実際、どんな人間なのかと思って、近づいたんだけど。男を集めてチヤホヤされているみたいに見えたんだ」


 ……別に間違ってはないけれど。何せ、ハーレムを作ろうとしているのだから。


 アリアナとレイノルドの二人は思う。


 なんだかめんどくさい人ね。

 なんだかめんどくさい人だな。


「けど、君の剣の扱いを見て、勘違いだったんだとわかった。金のかかったプレゼントなら気にいると思ったんだけど、それも違うみたいだね。猫も……あいつらに火で炙られそうになっているところで、見逃せなくてね。助けてくれてありがとう」


 レイノルドが、語りに割って入るように静かに言った。


「勘違いだったんなら、もういいですよね。アリアナにもう、構わないでくださいね」


 アリアナを庇うように、レイノルドはアリアナの腕に手を置いた。


 レイ……そういう気軽なのやめてよ……。

ジル・ディールさんは、ジル・ディールまでが名前なんですかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ