174 喜ばしくない鬼ごっこ(4)
「きゃっ」
腕を引いたのは、ジル・ディールだった。
……気を抜いてしまった……。
腕は掴まれたままで、触れるほどの距離。上から見下ろされる。
逃げるに逃げられず、向かい合う。
「プレゼント、気に入ってくれた?」
言いながら、一歩押してくる。
アリアナは、そのまま後ろへ一歩下がった。
「あら、あれ、先生からだったんですね。ちょっと好みじゃなくて」
スンっとした表情で応える。
「そんな事言って。ボクからのプレゼントは売ってお金にするの?それとも、捨てる?」
さらに、一歩。
後ろは校舎の壁なので、これ以上後ろへ下がるわけにいかない。
人通りもない。
うわぁぁ……。
なんかヤバい人だ……。
「……欲しい人に譲ってもいいんですけど。もし、返して欲しいのなら」
「いらないよ、そんなの」
吐き捨てるような声だった。
「君はスゴいね」
ジル・ディールはそんな風に言ったけれど、声はどこか冷めていた。
「…………?」
「君はスゴいね。あんなに有名で顔のいい人間ばかり侍らせて」
「……たまたま優秀な人ばかり集まってくれたので」
「知りたい。どうしてみんな、君みたいなお嬢さんに懐いているのかな」
ジル・ディールの顔が、わずかに歪む。
「君が持っているものは……何……?」
ジル・ディールが、また詰め寄ろうとした、その時だった。
がばっと何かが覆い被さり、アリアナの視界は黒い何かに遮られた。
…………!
それは、アリアナを庇ったレイノルドだった。
レイノルドがアリアナを引き寄せ、抱えるように抱き締めた。
魔術師のマントの内側が、アリアナの視界に拡がっているのだ。
「アリアナに何か用ですか、先生」
レイノルドの声が、冷たく響く。
こ……これは……。
アリアナの身体に、レイノルドの体温が感じられた。
動けなくなる。
これは危険では!?
レイったら何してるの……!?
マントで顔が、隠れていてよかった。
こんなの、ちょっとめんどくさそうなどこかの王弟より危険過ぎる。
助けるにしても近すぎる!!
「いや、なんでもないんだ」
そう、独り言のように言って、ジル・ディールがどこかへ行ってしまう足音が聞こえた。
……先生がいなくなったら、レイに抱き締められたまま、二人きりになるのでは……?
それはまずい……。
二人きりになって、レイノルドがそっとマントの中を覗く。
アリアナは、すっかり下を向いて動けなくなってしまっていた。
「大丈夫?」
小さく、声をかけられる。
だから、近いって!!
アリアナが返事も出来なくなったのを、レイノルドは、ジル・ディールが怖かったせいだと思ったようだった。
レイノルドは、アリアナを支えるように手を添える。
違うの!!
近いからなの!!
こんな顔見せられるわけないのよ!!
きっと、レイノルドは怖がっているアリアナを守る為だったのだろうけれど、あろうことかアリアナが外から見えないようそのままじっとしていた。
早く離れてくれないかしら!!!!
最近レイノルドくんが頑張ってるんですよ。どんどん押していってほしいところ。