173 喜ばしくない鬼ごっこ(3)
それから、サウスフィールド公爵邸には、プレゼントが贈られるようになった。
ついている手紙には、ヴァドル王国の印が押してある。
……ジル・ディールからだ。
ドレスや宝石、靴など、何も考えずに贈るプレゼントでよく使われそうなものだ。
コンコン、と、アリアナの部屋の扉が叩かれた。
メイドのサナが扉を開けると、そこに居たのはレイノルドだった。
アリアナは慌てて、パッパッパと自分の姿を確認する。
普通の来客ならばここまで来ることは出来ないが、この部屋によく来ていたレイノルドは、サウスフィールド家の中は本邸でも顔パスだ。
今は特に、アレスの家庭教師をしているおかげで、何処を歩いていても何も言われないだろう。
最近は夜ライトが来る事も多いから、部屋着ではなくちゃんとした服を着ている事が多い。
今日も、ラフな部屋着ではなく、まだ普段着を着ていた。
よ、よ、よ、よかったぁ……。
「最近、変なプレゼントが来るんだって?」
あ、心配して、来てくれたんだ。
「そうなの。こういうドレスとか……」
そのドレスを見た瞬間、レイノルドが眉を寄せた。
「趣味悪いね」
「そうなの」
それは、金に物を言わせたような、相手の趣味ガン無視のドレスだった。
全体的に、黒で、胸元は大きく開いており、所々にダイヤモンドらしき石が嵌め込まれている。
「生地はいいんだけれど」
「本当に……何してくれてるんだか」
レイノルドが、そう静かに呟いた。
それから、レイノルドは基本的にアリアナについてくれていた。
ただ、ここ数日は、ジル・ディールに出くわす事もなかった。ただ、プレゼントが届くだけ。
『ハローハーモニー』の話し合いであっても、隣にはレイノルドが居たし、何かを察したメンバー達も何も言わなかった。
ただし約1名、「ア……アリアナ様ったら、恋人とずっと一緒だなんて。やっぱりこのお二人、そういう事なんですね!」と勘違いしている者も居たけれど。
今日の議題は、ドラーグが持ってきた。
「白い布が、足りなくなりそうなんだ」
「白……か」
「ああ。複数のテイストで使用する布だから。特にシンプルとマニッシュでは白メインの服があって、どうにもできない」
「布は調達する術がないわ」
「僕もだ」
「次に手に入るのはいつくらいになるの?」
「早くて1年先だな」
「1年……」
「じゃあ、人気のフェミニンを優先しましょう。白い生地もシンプルほどの量ではないし。一応、布は探してみるわ」
「ああ」
そんな風にして、『ハローハーモニー』の議題は残った。
うちは騎士育成メインで、服飾系にはノータッチだもの。
探すのは苦労するかもしれないわ。
そうして、アリアナとレイノルドは二人、学内を歩いた。
「あ、レイノルド様」
中等科の生徒らしき男の子が声をかけてくる。
「この間の大きな魔法陣の処理、手伝って欲しいんですけど」
「ああ。じゃあ、アリアナを教室まで送ってから行くから」
その時のアリアナは、気が抜けていたと言っても過言ではなかった。
最近、ジル・ディールと出くわす事がないからと、注意を怠っていた。
「レイ、私なら大丈夫。すぐそこまで行けば、人通りは多いのだし」
確かに、すぐそこの高等科の前まで行けば、人通りは多い。
ほんの数十メートルほど先だ。
「……すぐ、戻ってくるから」
手を振ってレイノルドを見送り、足を踏み出そうとした瞬間、アリアナは、建物の陰に引っ張り込まれた。
この国では、二文字の名前も多いです。特に平民の間で流行っているようです。