171 喜ばしくない鬼ごっこ(1)
文化祭が終わると、日常はすぐに戻って来た。
まるで、ずっとそうだったように、みんなもすぐに日常に慣れていった。
ただ、大量の服の注文書が、文化祭は夢などではなかった事を理解させてくれた。
授業へ行く為の廊下も、久しぶりなら、なかなか悪くはないものだ。
明るい日差し。
もう秋も終わるというのに、まだまだ暖かい。
ふと、曲がり角でジル・ディールを見かける。
アリアナは、少し考えた末、ポケットの中のペンダントを探った。
緑の石がはまったペンダントトップの裏には、小さな魔法陣が描いてある。
とても細かな線で。
認識阻害、なんていうけれど、本当に効くのかしら。
制服の色だって変わるわけじゃないのに。
けれど、いざという時のためにも、今実験してみるのも悪くない。
アリアナは、ペンダントをスッと着ける。
さあ、行くわよ。
いち、に、さん!
堂々と歩き出す。
ジル・ディールを見ないように真っ直ぐに歩いた。
ポーカーフェイスは苦手じゃない。
堂々と。
ジル・ディールとすれ違う。
すごい!視線も何も無かったわ。
確かに、レイのペンダントは効果を発揮するらしい。
着けているところを見られなければ、いつだって逃げられるということだ。
一安心、と思ったのもつかの間。
そのすぐあとで、同じ方向に行くジル・ディールを見つけた。
アリアナが目的としている部屋に入っていく。
音楽実習室。
それはそうだ。
相手はうちの学年も担当している音楽教師なのだから。
逃げるわけにもいかない、か。
何もないかもしれないし。
少し緊張しつつも席に座る。
音楽実習室は、簡単に言えば、円形ホールだ。
円状になった小さな舞台を中心に、円形に席が設けられている。
すると、両側にいつものメンバーが座った他に、目の前にレイノルドとアルノーが座った。
「…………!」
守ってくれてるんだよね。
それにしても……!
視界の右端に、透き通った白金の後ろ頭が見える。
正直、これほど近くから後ろ頭を見る事などない。
後ろに立ったとしても、身長の差で、頭の後ろは見えないからだ。
目立つから、つい意識してしまう……。
アルノーが後ろを向いて、にこっと笑った。
「アリアナは、楽器は何が得意?」
「そうね、一通り習ったけど、得意なものはないわね。アルノーは?」
「そうだな……。ハーモニカ?」
「あら、似合うわね」
教養で楽器を習う貴族は多いものの、ハーモニカを習っている貴族というのは聞いたことがない。
けれど、アルノーにはなんだか似合うと思えた。
「では、授業を始めよう」
普通通り、授業が始まる。
今日の授業は、それぞれ得意な楽器を披露する授業だった。
披露した後、グループを組んでアンサンブルで発表するのだ。
音楽実習室には、あらかじめ多種多様な楽器が準備してある。
そのどれかを使い、演奏を披露する。
「ではまず、ボクの演奏から始めようか」
そんな音楽の授業は、拍手と共に始まった。
ハーレムものなのでおじさま枠がいるんじゃないかと思ったわけですが。そんなにおじさまでもないね、きっとね。