169 胸の鼓動を素直に聞けば(1)
夜道を、ライトのままで歩く。
金髪の目立つ姿で歩けば、ルーファウスの人間だと宣伝しながら歩くようなものだからだ。
アリアナの顔を思い出す。
ただ、向かい合っただけなのに。
何かおかしかっただろうか。
僕の態度が?
それとも……。
本当にアリアナがライトに気があるとか。
そんな事……。
まるっきり僕なのに、そんな事あるだろうか。
僕とライトの違いなんて。
……もしかして、アリアナは黒髪フェチなのかな。
黒髪に染めたら、好意を持たれるなんて事……。
いや、それは流石に考えにくいだろう。
もし、本当に好意があるなら、正体を明かせばいいんじゃないか。
ライトは僕だ、って……。
そうすれば、「私が好きな人はレイノルドだったのね……!」なんてなるかもしれない。
そうじゃなくても、正体を知ってさえいれば、認識阻害は効かなくなるから、レイノルドの姿のままで黒髪黒目に見えるようになる。
もし黒髪フェチだとでも言うなら……。
いや、そうじゃない。
そんな事をして、また疎遠にならないとは限らない。
レイノルドにとって、この人生で、またアリアナのそばに居られなくなってしまう事は、何よりの恐怖だ。
頭を振って、すっかり暗くなった街の中を歩いた。
翌日は、文化祭の片付け日だった。
学内の飾りや小物などが、どんどん木箱に詰められ、日常に戻っていく。
それは、少し寂しい光景だ。
とはいえ、準備の重要な部分のほとんどを任されていたレイノルドは、片付けにはあまり参加させてももらえず、手持ち無沙汰なまま、会議棟の窓から学内を見下ろしていた。
「やぁ」
近づいて来た声に、
「ああ」
そちらを見ずに、返事をする。
声で、エリックだとわかった。
エリックも、文化祭では一人舞台。片付けの日など、やる事がないのだろう。
「凄かった、舞台」
「ありがとう」
エリックが笑う声がした。
「俺は、占い行かなかったよ。君の前でアリアナとの相性を占うなんて、やりたくないからな」
「…………」
レイノルドは、それに何も言えなかった。
目の前でエリックがアリアナとの相性を占うなんて、こっちとしてもお断りしたい。
あまりの見たくなさに、エリックとアリアナの相性は50%に固定されているくらいだ。
いいじゃないかと思う。
僕みたいに眼中にないよりは、ハーレムに選ばれている君の方が。
「アリアナも一緒に見てたけど、すごく感動してたよ」
代わりにそんな事を言っておく。
エリックはそこで苦笑すると、
「痛いなぁ」
と一言漏らす。
珍しく学内は騒がしくて、ひっきりなしに誰かの声が遠くで聞こえた。
「デート?」
エリックが尋ねる。
レイノルドは、その質問を笑い飛ばす。
「まさか。……幼馴染みだろ」
「幼馴染みでも、好きになる事はあるだろ」
「そうだね」
「レイは、アリアナの好きな人を知らないんだな」
「え……?」
エリックの方を向くと、どこか悲しい笑顔で窓の外を見ていた。
「君は、知ってるの?」
レイノルドの質問に、エリックは一度投げ捨てるような笑いを吐くと、
「もちろんだ」
と静かな声で言った。
「そう」
それは、アリアナに好きな人が居るという事を意味していた。
いるのか……。
まずそこに、少なからずのショックを受ける。
まさか……ライトだったりしないよな……。
エリックはなんだかんだ、アリアナの応援をしてしまうので、ちょっとかわいそうなのです。