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168 ハーレムに入れてよ(2)

「ん」


 そっけない仕草で、レイノルドが腕を出す。

 エスコートするから、掴まれという意味だ。


 すっとその腕に軽く手をかけた。


 振り向かずに歩く。

 正直、慌てずに歩くのに、レイノルドの存在はありがたかった。


 外に出て、馬車まで歩く道すがら、ずっと腕を組んでくれていた。


「……ありがとう、レイ」


「いいよ」


「うん……」


 アリアナは、ジル・ディールを思い出し、少し苦い顔をした。



 その夜、ライトはアリアナの部屋に居た。


「…………」


 アリアナの顔が少し暗くて、あのジル・ディールと何かあったんじゃないかなんて考える。

 ……告白、とか。

 何か。


 少し沈んだ、困り眉の顔で温かな紅茶を出され、その湯気の向こう側でカップをきゅっと握るアリアナの手を見た。

 少しも目を逸せない。

 逸らさずに。

 何か、合図があるかもしれないから。

 それを見逃さずに。


 少しだけ視線を落とし、何処を見るでもなく目の前の煌びやかなデザート達を視界に収め、少しだけ落ち着いたアリアナは、ライトの前で静かに口を開いた。


「今日ちょっと、ある人に話をされて」


 え。


 ある人というのは、あのジル・ディールなんだろうけれど。

 話……?


 まさか、求婚されたとか。

 好きになってしまったとか。

 そんな事になったら……。


「ん?どういう事?」


 冷静に尋ねる。


「あのね、」

 そう言って、真っ直ぐにライトを見たアリアナの視線と、ライトの視線がかち合う。

「ジル・ディールっていう、ヴァドル王国の王弟なんだけど……。ハーレムに入れて欲しいって言われて」


 ハーレム、か……。


「……ハーレム計画の事を言ったの?」


「いいえ。パーティーであれだけ引き連れてたから。あの場に入りたいって言われたのよ」


「それは……奇特な……」


 パーティーのアリアナを思い出す。

 確かにパーティーでのアリアナは、何処かの女王……いや、どちらかといえば、港を牛耳る海賊のキャプテンの様だった……。これだけ美しいキャプテンが居ればだが。


 けど、ライトに相談するって事は、余程怖かったんだろう。


「ジル・ディールを入れたら、ヴァドル王国と繋がりが出来るかしら」


 怖かっ……。


 いや、けっこう乗り気だ……。


 ライトは一人、頭を抱える。


 阻止しなければ。

 これ以上アリアナの周りに人間が増えてはたまらない。


「いや……、正式な婚姻でもないのに、うちの国に足留めしてしまっては、国同士の関係がどうなるかわからないから、僕は反対だな」


「そう……ね」


「曲がりなりにも王家の人間を……、奴隷だなんだといちゃもんつけられて戦争に持ち込むタネにされる可能性はあるからね」


「そうよね。……『よく知ってもらうように努力する』と言われたのだけど、あまり近付かない方がいいわよね」


 ……そんな事になってるのか……。


 どうにかしないとな。



 話が終わり、帰る時間になる。


 それにしても。


 最後までアリアナを見ていたけど、ライトに向けられる視線に、特別なものは感じられなかった。


 “気になる人”というのは、恋愛という意味ではなかったのかもしれない。


 ライトでいる時は普段より少し近い関係、とはいえ、言動そのものは僕なのだから、そう変わるものでもないはずだ。


 その時だった。


 さよならを言うために、ふっと目の前に立った時だった。


 アリアナの顔が、ぽっと赤らんだ。


 え……?


 まじまじとアリアナの顔を見ると、気まずく思ったのか、アリアナは焦って髪を指で梳くような仕草をする。

「なんでもないの」


 そう言って、頬を赤らめたままにっこりと笑うアリアナは可愛かったけれど、ライトの心の中には、なんだかモヤモヤしたものを残した。

変な先生が登場しましたが、まだレイノルドくんのターン!

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