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160 万が一、少しでも(5)

「え、えと、レイ、なんだったかしら」


 ドギマギして聞き直すと、レイノルドはふっと微笑んで、

「アリアナの明日着る服、僕に選ばせてよ」

 と微笑む。


 うわ……。


 それは、若干引いてしまうような優しくて優雅な微笑みだった。


 その微笑み……いっそ腹が立つわね。


「いいわよ」


 ツンとした顔で返した。


 レイノルドは、一着ずつアリアナと見比べて行く。


 ……そういう見方はちょっと恥ずかしいのだけど。

 お客さんも居るわけだし。

 周りの様子を窺うと、みんな見て見ぬふりをしているようだった。


 ……恥ずかしいのだけど!?


「うん、これがいい」


 レイノルドが選んだのは、フェミニンな浅葱色の切り替えワンピースだ。

 胸元の甘くない大きなリボンが特徴。


 ……なかなか可愛いのを選んでくるじゃない。


「あ、ありがとう」


「じゃあ、お会計を」


「え?私が着るんだから、そんなのいいわよ」


「僕が選んだんだから。遠慮するよりも、お礼をくれた方が嬉しい」


 レイノルドがそう言って、結局そのワンピースはアリアナのものになってしまった。


 レイったら最近甘いんじゃないかしら。


 お礼……。

 お礼ね。

 これを着た姿を見せて、何かお礼すればいいのね。


 うん、まあ、しょうがないわね。


「ひとまず、着替えてくるわね」


「……今じゃなくてもいいけど」


 そうレイノルドは言うけれど、プレゼントされたのだからまず最初に見るべきではないかしら。

 明日会えるかわからないし。


「今でいいわ」


 そう言って、アリアナはバックヤードへ着替えに行った。


 程なくして、カーテンの隙間から顔を出す。


 レイノルドが最初に気づき、少し嬉しそうな顔をした。

『ハローハーモニー』のメンバーにもお客さんにも少なからず注目される。


「あの……」


 そんな風に見られると、緊張してしまうのだけど?


「出てきなよ」

 というレイノルドの声で、おずおずと姿を見せる。


 レイノルドの感想は、

「いいね」

 と一言だけだったけれど。


 ……なんだか、笑顔だわ。


 屈託のない笑顔で、なんだか照れてしまう。



 この後は、“さよなら”を言う時間だった。

 二人で店の前に出て、少し離れた場所から、店を眺めた。

 足元に木漏れ日が揺れる。

 ここで、アリアナが一言、“じゃあ”と言えば済む話だ。


 それが、なんとなく言い難いなんて。


 なんて言えば、綺麗に別れられるんだろう、なんて。


 なんて言えば、また……。


 またこうして一緒に……。


 けど、そんな気持ちも押しやらなければ、こうしている間にも注文書はどんどん積み重なってしまっているのだ。

 このままでは、例えマーリーに勝ったとしても、コストで身動き取れなくなる可能性だってある。


 ちょこん、とレイノルドの顔を見上げると、

「じゃあ私、もう店に戻らないと」

 と声をかける。


「うん、じゃあまた」


 レイノルドは相変わらずそっけなくて、それが少し寂しいと思ってしまった事に腹が立ったけれど。

 今日は、もうこれ以上一緒にいるときっと心臓が疲れてしまうから。

 アリアナもそれ以上は、何も言わない事にした。

レイノルドくんが「今じゃなくていい」と言ったのは、アリアナがお着替えで注目されるのがちょっと嫌だったからだと思われます。

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