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159 万が一、少しでも(4)

「いいの?来てもらって」


 アリアナとレイノルドは、二人、『ハローハーモニー』に向かっていた。


「女の子向けなのよ?」


「アリアナにも来てもらったし、行くって約束したよね」


「そうよね……」


 なんか……。

 歩く距離も近いんじゃないかしら。


 腕が触れそうな距離は落ち着かない。


 けど。

 ……さっきだって隣に座っていて肘が触れそうな距離だったのだから。

 きっと隣り合って歩くには、これが適切な距離なのかもしれないわ。

 そうよ。

 ジェイリーと歩く時は、もっと近いし。

 腕を組んだり、手を繋いだり。


 そこで、うっかり自分とレイノルドが腕を組んだり手を繋いだりしながら歩く姿を想像してしまう。


 ち、ちがうちがーう!!


 こ、子供じゃないんだから、そんな歩き方しないわ。

 ジェイリーみたいに兄妹じみた関係でもないんだし。


「コホン」


 照れを隠すために、一つ、咳払いをした。



『ハローハーモニー』に戻ると、相変わらず盛況だった。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい、アリアナ様!」

 アイリが笑顔で迎えてくれる。


 後ろにいるレイノルドを見て、フリードが、

「いらっしゃいませ」

 と丁寧なお辞儀をすると、レイノルドが、

「ああ」

 とだけ返す。

 レイノルドの魔術師のマントが、ひらりと揺れた。


「見てください、アリアナ様!」

 アイリがピョンピョンしそうな勢いで、紙の束を見せてくれる。


 それは、注文書だった。


「…………え」


 受け取り、何度か眺めたけれど、確かにそれは、アリアナが店に居ない間に出来上がった注文書だ。

 それも、数十着分はあるだろう。


「これ……、こんなに注文が入ったの?」


「すごいね」


 横から覗くレイノルドも、驚きの表情を見せる。


 こ、こんなに注文が入るなんて……。

 デザイン持ち込みの服なんて……こんなに請け負ってもらえるかしら。クオリティを落とすわけにもいかないし。

 受付窓口に倉庫に配達に……。

 とりあえず、会議室は借りておくとして、それにタイリウ商会にも要請を……。


「じゃあ、今すぐ買うのは難しいのかな?」


 横からレイノルドの声がして、アリアナは現実に引き戻される。

 確かに、Mサイズは軒並みなくなっていた。


「あ、そうね。私とアイリが着ているのがMサイズなのだけど、それがいいならまだショーウィンドウのものがあるわ。あれを違うサイズにかえれば、一着くらいなら融通できなくもないわよ」

 と目をやるショーウィンドウには、8つのトルソーが置いてある。


 全部で10種類の服。

 アイリとアリアナが着ているのを合わせて、10種類だ。


「へぇ」

 レイノルドが、ショーウィンドウに目をやる。


 レイノルドの表情は、いつものレイノルドの顔ではなかった。

 二人きりでいる時は、見ることのない顔。

 面白がっている、不敵な笑み。それはどこか冷たくて、けれど目が離せない程魅力的……ううん、魅惑的だ。


「アリアナは、明日の服は準備してあるの?」

「ううん。私がもらったのはこの一着よ」

 そう言って、着ているゴシックの衣装を示す。


「ああ、それも可愛いけど、明日の服、僕が選んでもいいかな」


「…………」


「…………?」


「…………?」


 え、レイは、今なんて言ったの?


 “かわいい”………………?


 私が?


 レイノルドが私の事を…………。


 違う、違うわ!!


 う、うっかり自分が可愛いって言われてるのかと思ったわ!!


 けど違う。


「アリアナ?」


 これは、服に言った言葉よ!

 レイノルドは、私じゃなくて、服が可愛いって言ったの!

 フリードがデザインしたこの服が!!


 つまり、今ほめられたのは、私じゃなくてフリードよ!!


 そこに好意が紛れているんだとしても、それはフリードに対してだから!!

レイノルドくん、フリード・スレイマンが気に入らなくて、ちょっと冷めた態度になってしまっております。

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