157 万が一、少しでも(2)
大ホールは、人でいっぱいだった。
それもそうだ。
この国の王子が、一人で舞台に立つというのだから。
隅の方だけれど、なんとか席を確保したアリアナとレイノルドは、隣同士で座った。
……近いわ……っ!
席はそれほどぎゅうぎゅう詰めというわけではない。
ちょっとゆったりめの映画館のシートくらいはあるわけで。
それでもアリアナは、これほど近い距離にレイノルドが居るのは気が気ではなかった。
右にレイノルド。左には、さっきレイノルドからもらった小さなベルトを腰につけている。
どっちも意識してしまう。
特に、右側が。
ちょっとでも動くと、肘が触れてしまうんじゃないかと思ってしまう。
……違うわ。
隣に座ってるんだから、肘くらい当たったって問題はないのよ。
宝石用のベルトだって、おすすめされたからで、深い意味はないはず。
パチッ。
隣に座るレイノルドが、同じ色の対の小さな革ベルトに付いている台座に、宝石をはめ込んだところだった。
……深い意味はないはず……!
けど、ちゃんと使ってくれるのね。
…………うん、私も……大事にしよう。
大ホールの、ざわざわとした声がいよいよ、というところで、ブー……っと幕が上がる音がした。
明かりが落ちたホールの中、いよいよ始まるんだと、少しドキドキする。
エリックは一人で舞台に上がるという事だった。
国民から期待される王子、国民から注目される王子なだけあって、基本的に頭も良くて多才な人だ。
アカデミーに通って勉強しているとはいえ、実際のところ、学んでいるのは学友と共に過ごす時間というもので、知識的には学ぶべきものなどもうないはず。
そんなエリックが、一人で舞台に立つというのだから、それはもう満員御礼だろう。
パッと舞台がスポットライトで照らされる。
中央に立っているのは、エリックだった。
手にはバイオリン。
無音で立つその姿が、大勢の人間に歓迎の拍手で迎えられる。
確かに、エリックは音楽も習っていたわね。
エリックの、バイオリンの低い音が、ホールに響いた。
観客席のソワソワとした気持ちが伝わってくる。
「ア〜〜〜〜〜♪」
「!?」
そのバイオリンに合わせて、エリックが歌い出したものだから、誰もが息を呑んだ。
ご令嬢達のため息が聞こえた。
「遥か夕闇の〜〜〜〜……記憶〜〜〜〜……」
……謎の美声……!!
曲が終わると、舞台に明かりが灯る。
今度は、軽快な音と共に、エリックが舞台を歩き出した。
「勇気出して君と踊る素敵な夜さ〜〜〜〜〜♪」
今度は、町のお祭りで聞かれるような、軽快な音楽だ。
ノリノリのバイオリンと王子を王子たらしめる笑顔。
流石としか言いようがない。
全ての曲が終わり、お辞儀をした瞬間、拍手が湧き起こる。
「すごいわ!」
思わずアリアナが声をあげると、レイノルドがふっと笑った。
「僕らの親友は、舞台も似合うね」
レイノルドの言葉に、アリアナがくすくすと笑った。
ほのぼのデート回!まだ続きます。