154 魔術師館の相性占い(2)
水晶玉は、少しひんやりとした感触だ。
「まず、あなたの名前を教えてください」
……!
どきっとする。
わかっていても、水晶玉から声がするのは少し驚いた。
……考えるだけでいいのよね。
えっと……『アリアナ・サウスフィールド』
これでいいのかしら、と思っていると、水晶玉から、
「では次に、相手の名前を教えてください」
と声がした。
どうやら、これで合っているらしい。
……相手。
相性占いで占いたい相手。
…………『レイノルド・ルーファウス』
あ、待って、この人じゃ、なかったかも。
けど……、他に、思いつく人なんて……。
どうしよう。
戸惑ってはみたものの、水晶玉はそれで受け入れたらしい。
すぐに、次の質問の声がした。
「あなたの髪の色は、なんですか?」
……『ハニーブロンド』
「あなたの瞳の色はなんですか?」
……『ヴァイオレット』
「相手の髪の色は、なんですか?」
……『プラチナブロンド』
……髪の色で相性がわかるのかしら。
そんな質問が幾つかあった後、段々と相性に関係ありそうな質問が増えてきた。
「あなたの好きな動物はなんですか?」
……『猫』
まあ、猫を助けて死んだりした事はあるけど、猫は好きね。
「相手の好きな動物はなんですか?」
……『知らない』
……知ってるわけないじゃない。
「あなたは空き時間、何をして過ごしますか?」
……えっと……『剣の訓練』
「相手は空き時間、何をして過ごしますか?」
……知らないけど……『魔術』?
質問を聞かれれば聞かれるほど、レイノルドについて私が知らない事の多さにがっかりしてくる。
相手をレイにしなければよかった……。
こんなの、相性以前の問題だ。
こんなに知らない事ばかりだなんて。
質問をされる度に、苦しくなる。
こんな事で、相性だって悪いに決まってる。
私だって、もっとレイを知りたかった。
もっとずっと一緒に居たかった。
ここで最悪の相性だなんて言われたら、もう立ち直れないかもしれない。
どれだけ落ち込んだ顔を見せてしまったのか、眼鏡の占い師さんが心配そうにした。
「質問は以上です」
……終わった。
ほとんど、答えられなかった。
「あなたとお相手の相性は……」
「…………っ」
「100%です!!!!」
「…………え?」
アリアナの頭上でくす玉が割れる。
ヒラヒラと花弁が、アリアナの髪に舞った。
占い師役がすっかり抜けた眼鏡の占い師さんが、目をキラキラさせて息を呑んだ。
「お……っ!おめでとうございます!!」
「……ありがとうございます……?」
「普通は100%なんて出ないんスよ!」
「え?あ……」
やっと状況が理解できたアリアナは、頬が火照るのを感じた。
そ、そんなまさか……。
レイと……相性ぴったりって……こと?
でもそんな。
違うの。レイの出し物だったから、レイを思い浮かべただけで……。
きっと、100%なんて、簡単に出るに違いないわ。
「べ、別の人との相性も占っていいかしら!?」
「え?」
眼鏡の占い師さんは多少面くらったけれど、
「ええ、いいっスよ」
と、快く了承してくれた。
じゃあ、とエリックの事を思い浮かべる。
「相性は……50%です!」
「!?」
エリックと私が50%!?
ハーレムに入れようと思ってるのに!?
「も、もう一人いいかしら!?」
そう言って、何度も試した結果、フリードも、ドラーグも、アルノーも、マーリーも、シャルルも、ハーレムに入れようとした人はみんな、50%だった。
そんな……!
「じゃあ、もう一人いい!?」
「ええどうぞ!」
眼鏡さんは、嫌な顔ひとつせず了承してくれる。
じゃあ……、ジェイリーで!
「相性は……20%です」
「え……」
そんな……。
じゃあ、レイだけが相性抜群ってこと……?
「あ…………あの、ありがとうございました……!」
アリアナは、ガタッと椅子を後ろに押しやりながら立つと、逃げるように部屋を出て行った。
レイノルドくんなら、好きな動物はアリアナとか言ってもおかしくないよな。