151 1日目!(2)
文化祭1日目、『ハローハーモニー』は盛況だった。
常に3、4組のお客が店の中できゃっきゃと過ごしている。
ショーウィンドウを眺めていく人も多い。
よかった……なんとかお客さんがいるみたい。
外で話題にしてくれてる人もいるみたいだったし。
これなら、外回らなくてよさそうかな。
外のざわつきが、心地いい。
「ただいま」
休憩からフリードが、店舗に戻って来た。
「おかえりなさい、あら?」
ドラーグと休憩に行ったはずのフリードは一人で、何か食べ物の器を2つ持っていた。
「おみやげ」
フリードが器を示す。
小さな透明の器には、コロコロとしたイチゴが入っていた。
イチゴあめ?……ではなさそうね。
「イチゴの……砂糖漬け?」
「そうなんだ。美味しいって評判になってたよ。隣がアイスの店でね。あれは結託して出してるのかな」
「へぇ……」
確かに、アイスとイチゴの砂糖漬けは合いそうだ。
アイリがレジから顔を上げる。
「わぁ!ありがとうございます!」
順番にバックヤードでイチゴをつまむ。
「で、ドラーグは?」
「ドラーグは、色々見て回ってるよ。今頃、東側の店の並びにいるはずだよ」
「ああ……」
アリアナが聞いた限りでは、出店のけっこうな数が領地の名品を売る場になっているらしい。
商会の人間としては、この小さな各領地の市場のような場所を見逃すわけにはいかないのだろう。
「しょうがないわね」
こんな時、パンフレットの一つでもあればもっと便利なのだろうけれど、どうやらパンフレットという概念は、このアカデミーにはなさそうだ。
「アイリもそろそろ休憩いってらっしゃい」
「え、アリアナ様を差し置いて、ですか?」
「私はもうしばらく、この店を見てたいの」
にっこりとする。
「もしドラーグが見つかったら、何か美味しいものでも買ってくれると嬉しいわ」
「……あ」
アイリが何か言いたそうな顔をして、そしてすぐ、その提案に了承してくれた。
「いいですよ!何か美味しいもの、探して来ますね」
それからすぐ、お客さんから声がかけられた。
アリアナが飛んでいき、フリードは慌ててレジに入る。
声をかけてきたのは、中等科らしき女の子3人組だった。
「すみません、この服って、小さいサイズはもうないんですか?」
女の子は、ガーリーの服を持っている。
これはアイリが着ているのとは違う方で、ピンクと白でまとめてあるふんわりとした服だ。
「残念ながら、もう売れてしまったの。もしよかったら、注文してくれれば同じものを作れるけれど?」
「わぁ……!」
女の子達は、思いの外嬉しそうな顔をした。
「私達、これお揃いで着たくて」
「注文できますか?」
「…………っ!」
まさか、同じデザインの服を、これほど欲しがってくれる方がいるなんて。
“おそろい”!
魔法の言葉だわ。
思わぬところで感動してしまう。
「あら、泣かないでください、お姉様」
「ええ、大丈夫よ。少し嬉しすぎただけ……!」
「お姉様……!」
アリアナは表情を立て直すと、ノートに注文票を作った。
その瞬間から、『ハローハーモニー』は、注文を受け付ける事にした。
小さな看板にはチョークで、『在庫がなくても注文を受け付ける事が可能です』と書いておいた。
お店の方は順調のようです。基本的にフリード・スレイマンくんが有能。