148 場所取り合戦(4)
そして、とうとう場所取りの日がやってきた。
場所取りは、希望している実際の場所で行われる。
それぞれの場所に、文化祭実行委員がおり、“話し合い”が始められるのだ。
ほとんどの団体が、その“話し合い”を見届ける為に全員で参加する。
その為、その時間は、どこの場所でも人で賑わっていた。
アリアナ達が、カフェへ行く手前の店舗の並びへやって来た。
中サイズの店舗が6軒。
事前調査の結果、6組の団体がそこに集まっている。
……急がなきゃ。
一見、うまく収まりそうな状況に見えるけれど、それも今だけだ。
正門前の小サイズ店舗の方が、争奪戦なのだ。
それによって負けた団体が、こちらへ流れてくる。
その前に、場所を確保しなくては、“話し合い”に巻き込まれてしまう。
きっと端から決めていくはず。
なら……。
どちらから決められてもいいように、自然と真ん中の店舗へ。
マーリーも同じ事を考えたらしく、隣の店舗の前へ立った。
予想通り、実行委員は徐に端から決めていった。
一つ目の店舗の前には、2つの団体が居た。
「え、そんな……どうして」
「最後の一つはどうしても大掛かりな"話し合い"になりがちだ。どっちにしても“話し合い”に突入するなら、早く決めてしまうおうと思ったのかもしれないな」
隣にいたドラーグが、耳打ちするように話す。
「この店舗を希望する団体は、いらっしゃいますか?」
「はい。『ふわふわアイスクリーム』です」
「はい。『雑貨屋ルネ』です」
「……他に希望する団体はありますか?二つですね。お二方、譲る意思はありませんか」
「ありません」
「僕も、ないです」
「わかりました」
残念な事に、そんな形式通りの会話で、目の前で、“話し合い”は始まってしまった。
アイリが、はらはらとした顔を見せる。
「それでは、1万から」
「2万」
「2万5千」
オークションが始まる。
こればかりは仕方がない。
ここでのオークションの売り上げは、文化祭実行委員の手に。
文化祭当日の装飾は、この売り上げから賄われる。
残りは、大ホールで行われる打ち上げパーティーに。
使い道の明らかな収入。
貴族として、これが一番納得のいく方法なのだ。ジャンケンなどで、運を天に任せるよりは。
「3万」
「5万」
そこで、『ふわふわアイスクリーム』の代表が、
「お譲りします」
と苦虫を噛み潰したような声で言った。
しばらくして、実行委員はアリアナ達の前へ立つ。
そこで、多くの足音が聞こえた。
……急がないと。
急いでいるときこそ、冷静にならなくてはダメだ。
「この店舗を希望する団体は、いらっしゃいますか?」
「はい。『ハローハーモニー』です」
アリアナが、声を上げる。
もうすでに、正面店舗に入れなかった団体の一つ目が、顔がわかる所まで歩いてきていた。
「……他に、希望する団体はいらっしゃいますか」
少しの沈黙の後、実行委員は周りを見渡し、宣言する。
「では、こちらの店舗は『ハローハーモニー』にお貸しいたします」
ほっと胸を撫で下ろす。
「よかったですね」
「ええ、よかったわ」
隣の店舗のマーリーを見守る。
……マーリーとは勝負をしているし、場所がどこになるか見守ってもいいわよね。
そこで、周りがいよいよざわつきだした。
1組目の団体が到着するとき、ちょうど、
「……他に、希望する団体はいらっしゃいますか?」
を言った直後だった。
「…………」
気づきませんように!気づきませんように!気づきませんように!
「では、こちらの店舗は『リンドベル会』にお貸しいたします」
……よ、よかった……!
……う、ううん、別に隣になりたかったわけではないけれど!
マーリーがアリアナに向かってドヤ顔を向ける。
「負けないからな!」
「あら、うちだって負ける予定はないわ」
次回は、いよいよ文化祭はじまり~でいこうと思います。