表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/240

144 形になるべきもの(2)

 カランカラン。


 扉についた鐘が鳴る。


「あら、ドラーグ!今日はお友達連れてきたのね!」

 店に入るなり、仕立て屋リンドウの主人は、嬉しそうに話しかけてきた。


 ドラーグは企業秘密だと言ったけれど……、その企業秘密とやらが透けて見えるようだわ……。


 リンドウとそんなに親しいなんて、やっぱり顔が広いのね。


 リンドウの主人は、髪をきっちり纏めている妙齢の女性だ。

 ドラーグを相手に笑顔を絶やさない様子を見ると、なかなか親しいのがわかる。


 奥の部屋に通され、話は始まった。


 話は、トントン拍子に進む。


「これを令嬢向けの日常服として作ればいいのね」


「ええ」


 リンドウさんは、にっこりと微笑む。


「けど、いいんですか?デザインも材料も持ち込みだなんて」


「ええ、もちろんよ」

 リンドウさんは、8枚のデザイン画を愛おしそうに眺めた。

「誰かのパターン起こしが出来るなんて、師匠の下についていた時以来よ。なかなかこんな依頼してくれる人はいなくて。けど、他人が作ったものって、どんなものでも、自分には思いもつかない魅力があるの」


 アリアナは、そんなリンドウさんが眩しく見えた。

 自分でデザインを持ち込むなんて、仕立て屋としてのプライドを傷つけてもおかしくないのに。

 好意的に受け止めてくれて、とてもありがたい。


「材料にしても、そう。高級な布を消費してしまうわけにもいかないし。ドラーグが手伝ってくれるなら、百人力だわ」


「実は、」

 そこで、フリードが一歩前に出た。

「この2枚は、まだ悩んでいる部分があって」

「あら……」

 リンドウさんが受け取る。

「素敵なデザインね」


 そのまま、フリードはリンドウさんに相談を持ちかけ、あとの2枚の作業にかかった。


「これはこっちと同じテイストなんですけど」

「なるほど。黒が基調なのね。ダークね」

「ええ。それに、パーツが独特なんです。レースだったり、モチーフだったり」

「素敵なテーマね」


 それから1時間。


「こんな風に、帽子に飾りをつけるのはどうかしら」

「……なるほど」


 結局、みんなで顔を突き合わせ、残り2枚のデザインが完成した。


 オーダーメイドでドレスを作る時には、他で同じデザインを使う事はない。

 けれど、今回の日常服は既製品という立ち位置なので、それぞれのデザインで3サイズを3、4着ずつ作ってもらう事にした。

 同じデザインがそれぞれ10着ほど。文化祭では、およそ100着の服を準備出来るはずだ。

 注文が来るなら、追加で作ってもいいだろう。


 既成の服という概念があるにも関わらず、日常服でさえオーダーで作る令嬢は多い。

 実際、アリアナの服もほとんどがオーダーで作ったものだ。


 どれだけ受け入れられるかわからない。


 けど、文化祭という雰囲気や、フリードの女子人気は味方に出来ると信じている。


 ……このデザインは形になるべきものだものね。


 完成した10枚のデザインを眺め、アリアナ達は、緊張まじりの笑顔を見合わせた。

リンドウはあくまで店名で、主人の名前はリンドウではないのですが、アリアナは心の中でリンドウさんと呼んでいます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ