143 形になるべきもの(1)
「ここで生地を切り替えれば、この形でも普段着でいけるんじゃないかしら」
「ここにリボンを付けたらどうですか?」
「白の生地ならこの3種類だな」
ドラーグがサンプルとなる生地をテーブルの上に置く。
会議棟、『ハローハーモニー』の部屋では、複数のデザインが仕上がりつつあった。
4人で顔を突き合わせ、お茶を飲みながらああでもないこうでもないと意見をあげていく。
こうしてみんなでひとつの作業をしているおかげで、仲もより一層良くなりつつあった。
「これで、8つね」
テーブルの上に並べられた完成されたデザインを眺めて全員が満足そうな表情を浮かべた。
「完成予定のデザインはあといくつ?」
アリアナに尋ねられ、フリードがデザイン帳を開く。
「あと2つは完成させたいと思っているんだ。ただこの、」
と、2つのデザイン画が見せられる。
「シンプル系とゴシック系がピンと来なくて」
デザインはそれぞれ、ガーリー、シンプル、ゴシック、フェミニン、マニッシュと五種類のテイストに分けてある。
まだ仕上がっていないデザインは、シンプルとゴシックのデザインひとつずつ。
フリードは、どうやら刺繍や飾りを施すドレスが得意で、それ以外にはあまり自信がないようだった。確かにこの国の社交界では、刺繍や飾りの付いた服が主流だ。
けど、パーティーでもないなら、シンプルな服やダークな服に興味がある女の子が居てもおかしくないはず。
仕立て屋が決まったのは、それから2日後の事だった。
「あら、あれは……」
食堂で見かけたのは、ドラーグとフリードという珍しい二人組だ。
片方は女子を差し置いてパーティー会場での中心で煌びやかに目立ってしまいそうな伯爵令息。もう片方はアカデミーの中でも人柄の荒い方に属する商人の息子だ。
文化祭でチームになっている事を知らなければ、奇異の目で見られる事必至な二人。
珍しいと思い見ていると、
「アリアナ!」
とそのフリードから声がかかった。
「仕立て屋の候補が見つかったんだ」
「あら……!」
その日の放課後は、4人でその仕立て屋を訪ねることになった。
「屋敷の針子に頼むか、何軒かに分けて頼むのもいいかと思ったんだけど、テイストやデザインに統一感を持たせるために、結局一つの仕立て屋に注文する事にしたんだ」
「だから、“リンドウ“なのね」
仕立て屋リンドウといえば、特別令嬢達の話題に上るわけではないけれど、昔からお抱えの客がいる、丁寧な縫製が有名な老舗の一つだ。
「けど、本当にそんなところが学生のデザインを請け負ってくれるの?」
そんな質問に、ドラーグがドヤ顔になる。
「まかせとけ」
「すごい自信ね」
「まあな。企業秘密ってやつだ」
文化祭の話も段々と進んでまいりました!