141 特別ゲストをお迎えしました
「今日は、特別ゲストをお迎えしたわ」
アイリ、ドラーグ、フリードの3人が注目する。
「じゃじゃん!シシリー・ノーマンよ!」
「お邪魔するわね!」
アイリがキョトンとする。
「新しく入ってもらえるわけじゃないんですか?」
シシリーが、にっこりと笑った。
「私は、どこの団体にも所属してないの。他にやる事があるから」
「やる事?」
アリアナがにっこりと笑う。
「シシリーはね、メイクアップの依頼があるの。舞台に出る団体2つも担当してるのよ」
「ええ。まあ、裏方専門ね」
「かっこいいですね」
アイリの目がキラキラとしている。
「そんなんじゃないのよ」
シシリーが照れる。
会議室では、みんなどこかしら気持ちが緩む。
外からの厳しい目がない、大人も居ない、仲のいい人だけの空間は、気持ちを緩ませるのにうってつけだった。
「けど、だったら、メイクをするんですか?お客さんに?」
そんなアイリの質問に、アリアナが、
「お客さんにじゃないわよ」
と言ったので、それで他の3人は理解したようだった。
アイリは期待のこもった声で、
「じゃあアリアナ様に?」
と言ったけれど、アリアナは黙って首を振る。
「…………」
さすがのアイリも、何かひとつ思い付いたことがあるらしい。
さすがに気づいたみたいね。
「まあ、私もしてもいいけれど。主役は私じゃないわ」
温かい目で、フリードがアイリを見た。
その可能性を口にできないアイリに代わって、ドラーグが言い放つ。
「アイリ以外に誰がいるんだ?」
「…………っ!」
「わ、私なんてダメですよ!」
慌てるアイリに目もくれず、シシリーは準備していた木製の四角いボックスをテーブルに置いた。
上に持ち手が付いており、パカッと開くとメイク道具が山ほど顔を出すメイクボックスだ。
「今日はひとまずお試しね」
シシリーが嬉しそうに、メイク道具をテーブルに並べていく。
「今日!?今すぐですか!?」
そこで、アリアナが、男二人を部屋から出し、アイリは覚悟を決めるしかなくなった。
一応貴族のお嬢様とはいえ、見たところ貴族令嬢として生活していたわけではなさそうなアイリのことだ。
きっとパーティーにもほとんど出たことはなく、メイクもほとんどしたことなどないのだろう。
前髪をくるりと上にあげられると、アイリは思った以上に、緊張の色を見せた。
シシリーが、手際よくアイリにメイクをほどこしていく。
「ナチュラルで可愛い雰囲気が似合いそうね」
「う〜〜…………」
出来上がりに近づくと、アイリはちょっと唸っていたけれど、そんなアイリを、シシリーは素早く仕上げていった。
「髪も少しいじるわね」
そう言うと、毛先をくるくると丸めだす。
「かんせ〜い」
思ったよりも早く、アイリが仕上がった。
シシリーはご満悦だ。
廊下でのんびり窓の外を見ていた二人を呼び、アイリを披露する。
「うん、綺麗だね。花の妖精みたいだ」
フリードは息をするのと同じように褒め言葉を放つと、アイリは盛大に恐縮した。
「私!なんて!そんなそんなそんな」
目をぎゅっと瞑り、顔をぶんぶんと振る。
「いや、」
そんなアイリに声をかけたのはドラーグだった。
「どっちもいいよ」
そう言いながら、アイリに笑いかける。
アイリは少し照れながらも、
「そ、そうですか……?」
とその言葉を受け入れたものだから、アリアナとシシリーは二人、ドヤ顔を見合わせ、ガッツポーズを合わせた。
シシリーはどこに行っても知り合い多そうですよね。