表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/240

139 アイスをどうぞ

 翌日の授業は、なんだか気まずい気持ちでいっぱいだった。


 アリアナは、歴史のテキストに顔を埋める。


 昨日の夜、ベッドに入るまで泣いていたのは覚えている。

 ライトがずっとそばに居てくれた事も。


 それも……、朝起きたらちゃんとベッドの上に居た。

 うっすら記憶している抱き上げられた腕の中。

 あれはジェイリーじゃない。


 という事は、ライトが隣の部屋のベッドまで運んでくれたってことよね。


 ……なんだかんだいって、優しい人なんだ……。


 こんなもにゃもにゃした気持ちを引きずっても、いい店は開けないのはわかっているけど、気持ちを切り替えるのはなかなか難しいのだ。



 放課後。

 会議棟へ行く前に、少しベンチに座る。


 もし、レイノルドに会った時、こんな気持ちのままではきっと同じ態度を取ってしまうから。


 会議棟までの道。石畳の脇にある石のベンチに腰掛ける。

 腰にぶら下げている宝石の付いたキーホルダーがキラキラと輝いた。


 雲が流れる空を眺める。


 読もうと思って持っている本は、膝の上に置いたままだ。


 空を眺めていると、目の前にアイスが差し出された。

 コーンに乗せられた、小さめのアイスだ。


「!?」


「ほら、お嬢様」


 ふいっと見ると、そこに居たのはジェイリーだ。


「ジェイリー?」


「ほら、早く!溶けますよ」


 差し出されたアイスを、ジェイリーに持たせたまま、かぶりついた。


 チョコレート味だ。


「どうしたの、珍しいわね」


 改めてアイスを受け取る。


「昨日も今日も、なんとなく辛そうでしょ」


「あ……。心配させちゃったわね」


 とはいえ、まさか言えるような理由ではないし。


「アイス、ありがとう」


 お礼だけを言って、言葉を濁す。


 ジェイリーはジェイリーで、バニラアイスを持っており、はむはむと食べ始める。

 なんてバニラアイスが似合うのかしら。


 どこまでも優しい笑顔は、兄のようでもあり、はたまたベッドで抱いて寝るためのぬいぐるみを思い起こさせる。


「ホントは、」

 ジェイリーがおずおずと言い出す。

「泣き声が聞こえてきました」


「あ〜〜〜……、そうね」


「それで、心配で」


「そっか……」


「もし、悩みとかあるのなら、ロドリアス様に相談するとか……っ!俺も……そばに居るので」


「ありがとう……」


 まいったわね。

 これだと、何も話さないわけにもいかないか。


「けど、相談はいいわ。お兄様は劇の練習があるでしょう?王の役、大変なはずだわ」


 ロドリアスは、文化祭には、劇に出る予定だった。

 愚者に剣を突き立て弔う役だ。

 死者の中で一人、スポットライトに照らされ朗々と声を上げるシーンは、一筋縄ではいかないはずだ。

 殺陣の練習だってあるはず。


「それに……、たいした悩みじゃないのだから、大丈夫よ」


「あんなに大声で泣いておいて……」

 ジェイリーが眉を寄せる。


「ちょっと……人間関係でモヤモヤする事があって」


 すると、ジェイリーの声が小さくなった。

「……いじめとか?」


「ち、違うの!」

 大慌てでジェイリーを両手でぺしぺしと叩いた。

「誰も悪くないの。ただ……私が……モヤモヤしただけで」


「モヤモヤ……」

 ジェイリーが「う〜ん」と悩んでしまった。

 どうやらジェイリーは、人間関係でモヤモヤしたことはないらしい。


「優しいんだけどね。その人は。でも……、どうしても……。嫌なの」


「いや?」


「私に優しいのも、私に冷たいのも。他の人に優しいのも、全部嫌なの」


「…………」

 ジェイリーはそのままう〜んの格好を取っていたけれど、その瞬間、誰の事を言っているのかわかってしまった。

 そもそも、アリアナがそこまで嫌がる素振りを見せる人間は一人しかいない。


「……昨日、喧嘩でもしました?言い争いがあれば気づいたと思うんですけど」


「いいえ?」


 アリアナがキョトンとする。

 流石に二人の逢瀬を護衛が知らないはずもなく。

 けれど、ジェイリーが知っている事をアリアナはまだ気づいてはいなかった。


 仕方なくジェイリーは、ひとつため息を吐くと、ポフポフとアリアナの頭を撫でて終わらせた。

ここでのポイントは、アリアナはジェイリーの腕がどんなだか知っているという点です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ