138 ケーキはいかが?
一番星が輝く頃。
コンコン、と窓を叩くと、コトリ、と窓の鍵をはずす音がした。
けれど、いつものようにアリアナは出てこない。
他に誰かいれば鍵をはずすわけもないだろうし。
不審に思いつつも、ライトは窓を開ける。
勝手にお邪魔してしまうしかないみたいだ。
部屋の中は明るく、いつも通りといえばいつも通り。
「アリアナ……?」
アリアナは部屋の中に居た。
それも、すでに一人でケーキを食べていた。
テーブルの上に広がるケーキ類。
苺のショートケーキ、マロンケーキ、フルーツのロールケーキ、シュークリーム、マカロン、アップルパイ……と多種多様なケーキが並んでいる。
おずおずと近づくと、無言でライトの方を見たアリアナが、
「いらっしゃい」
とにっこりと笑顔を見せた。
あからさまな作り笑顔。
なんとなく、会議室の前で話した時から機嫌は悪そうだったけれど。
……僕、何かしてしまった?
とはいえ、何も思い浮かばない。
お互い文化祭で何をやるのかしか話していないし。
じゃなかったら、あの後、誰かと何かあったか、だ。
「今日は何かのパーティーなの?」
仕方なく、直接聞く事にした。
アリアナの目の前に座ると、一際大きな口で、ショートケーキを頬張った。
「違うみたいだね」
苦笑してみせる。
まあ、これは前置き。
けど、ここまで何も言わないなんて、結構な重症なんじゃないだろうか。
「何かあった?」
むぐむぐむぐむぐ。
公爵令嬢とは思えないリスみたいな口で、ケーキを食べる。
「なんでもないの」
言っている言葉とは裏腹な、むっとした口。
なんでもないって感じではないけど……。
シュークリームを黙って1つ食べ切ってしまうと、アリアナは、ライトの様子を窺った。
正面のソファに座って、呆れたような、優しく見守るような顔でのんびりお茶を飲んでいる。
何があったわけじゃない。
ただ、自分の気持ちを持て余しているだけ。
レイったら……。
今まで女の子と話してるところなんて見た事ないのに……!
同じグループに魔術師の女の子達が居るって……。
いつの間に!?
誰と!?
本当に、こんな事でこんな気分になるなんて。
パーティーで誰と踊っていても気にならない。
少なくとも、今までは気にならなかったはずだ。
けど、考え始めてしまうともう止まらなかった。
何処か、私の知らない所で。
私の知らない人と。
私の知らない女の子と、仲良くしてるなんて……!
それも魔術師!
さぞ魔術師同士は話が合うんでしょうね!!?
レイったら……!
顔だけはいいんだから!!
きっとモテているに違いない。
女の子に言い寄られたら、エリックみたいに軽い感じに対応するなんてできない。
きっと、満更でもない顔してるに違いないわ。
「レイったら……!ニヤニヤしちゃって……!!」
「え……?」
「う……っ」
「えーと……?」
「うわあああああああああああん」
「ええええええええ……」
アリアナ様、拗らせすぎなので、ヤキモチも持て余し気味にギャン泣きするのでした。