137 会議棟にて
翌日は早速、会議室が使える初日。
会議棟は、多くの団体の引っ越し作業で大騒ぎだった。
「私達の部屋は、3階の西側よ。端から2つめ」
「楽しみですね〜」
アイリのほわほわとした声。
ほどほどに狭い廊下から、西側の階段を登る。
人が3人ほど並べばぎゅうぎゅうになりそうな階段だ。
校舎とは違い、ダークカラーの木材で出来た会議棟は落ち着いた雰囲気で、建物自体は大きいものの、基本的にこぢんまりとしたアンティークな部屋が数多くある建物だ。
雰囲気こそ落ち着いているものの、それぞれの部屋には居着いている生徒も多く、基本的に騒がしい。
持ち込まれる荷物も多く、あちらこちらで木箱を運び込む生徒も多かった。
「君達は角から2番目の部屋だね」
スッと横を通って行ったのは、またしても、マーリーだ。
両手で木箱を抱えている。大きさからして、書類か何かだろうか。
「そうよ」
すぐにバレてしまうものなので、あっさりと答える。
確かに、端の部屋ならば窓も多く、少しだけ部屋も広い。
まさか……。
こっそりマーリーの後をついていくと、マーリーは、端から3番目の部屋の前で止まった。
「……そりゃそうよね」
「隣同士、よろしく」
そう言ったマーリーは、予想外にさっぱりとした顔をしていた。
そう、夏休みに子供達の先生役をしている時みたいに。
「よろしくね」
…‥何よ。
とはいえ、あの子供達の先生をした時みたいに、いい関係が作れたらいいわね。
マーリーを見送り、『ハローハーモニー』の面々に部屋を案内する。
「ここよ」
扉も、壁と同じダークカラーの木材でできた扉だ。
荷物を入れ込む学生の為なのか、両開きの扉だ。
「わぁ〜!豪華ですね!」
アリアナは、アイリの部屋を思い浮かべる。
そりゃあ、あなたの部屋と比べたら、何処も豪華でしょうよ。
廊下で、ふと、突き当たりの部屋が気になった。
そういえば、逆側は誰なのかしら。
ここにも文化祭準備の団体が入っているはずだ。
挨拶はしておきたいけれど。
ちらりと突き当たりの部屋の扉を見つめる。
と、ちょうどタイミングよく突き当たりの扉が開いた。
そこから出てくる、紺色の制服の裾を見て、一瞬で心臓が高鳴る。
「…………」
紺色は、ルーファウス家の色だ。
扉を出てきた人物が、プラチナブロンドの髪をキラキラさせて、顔を上げると、アリアナを見つけて微笑んだ。
「レイ……」
そんな顔で見られたら、困ってしまうじゃない。
まるで、心臓が掴まれてしまったようだ。
「お隣なのね」
「ああ、魔術師仲間で、出店することになってね」
「そうなのね」
その笑顔に釣られて、ついひょこひょこと寄って行く。
「うちも、4人で洋服のお店を開く事になったの。女の子の普段着のお店」
窓からの太陽の光が、どうしても心を安心させてしまう。
この光の中で、どうしてもレイノルドのそばから離れられなくなってしまう。
こんな気持ちは嫌なのに。
「じゃあ文化祭当日は、店に顔を出すよ」
「え?女の子の服なのに?」
「ああ、もちろん」
「あなた着るの?」
「着ないよ」
レイノルドがふっと笑った。
「けど、君は着られるんでしょ?」
「え……。ええ」
それってどういう意味?
どんな意味なのか聞くのが怖くて、アリアナは話を逸らす。
「あなたは、どんな店にするの?」
「僕らは、占い屋だよ」
「占い?」
「水晶占い。女の子達が、どうしてもこれがいいって言ってて」
女の子達。
魔術師仲間の……女の子達……?
「そうなのね。じゃあ、私、もう行くわ」
レイノルドの顔も見ずに、部屋に向かう。
「アリアナ?」
こんな気持ちは嫌なのに。
振り返り、笑顔を作る。
にっこりと笑って見せる。
「それでは、ご機嫌よう」
そしてアリアナは、返事も聞かずに扉を閉めた。
こんな気持ちは嫌なのに。
マホガニー材とかそういうやつですかね。