135 出し物を決めましょう(3)
「じゃあ、『アリアナ様ランド』始動ですね」
アイリの言葉に、
「そうだね」
と、フリードが当たり前のように言った。
「待って」
ドラーグがフヒャヒャと笑う。
アイリがキョトンとした。
よくもまあ、そんな顔ができるわね!?
「団体名に"アリアナ"はやめましょう。様付けもなしで。"ランド"もちょっと洋服屋って感じではないから」
アリアナの提言に、アイリは不満を示した。
「えー……。全部じゃないですか」
「店舗名にもしたいから、慎重に決めましょ」
そんなわけで、団体名は持ち越しになった。
とはいえ、洋服屋の名前、ね。
SHIBUYAとかではないわよね。
「それで悩んでしまって」
その夜。
ノートとにらめっこしているアリアナを、ライトはお茶をいただきながら眺めていた。
「団体名、ね」
そのメンバーに男が二人も居るのが気に入らないとか、そこに自分がいないのが気に入らないとか、そんな不満はあるものの、ライトはまともに相談にのった。
「洋服そのものにこだわるのもいいけど、イメージを名前にするのもいいんじゃないかな」
「イメージ?」
「女の子向けとか、普段着だとか。スレイマンがいるなら、流行りを取り入れるのがテーマだったり。何かあるんじゃない?」
「なるほど」
イメージを言葉に。
確かに、あったはずだ。
思い描いたものが。
女の子達の普段着。
それも、澄ました顔で作ってもらうものじゃない。
左門が知っているような、女の子達だけで試着しながら服を買う、そんな日本の女子高生のような体験をして欲しいと思っていたはずだ。
親のいない場所で、自分達だけではしゃぎながら。
「なんだかわかった気がするわ」
アリアナが、ライトに微笑む。
そのアリアナの顔がなんだか、いつになく緩んだ笑顔のように見えて、ライトは少し戸惑いつつも照れてしまう。
最近、アリアナが、少し心を許してくれている感覚は、幻想ではなさそうだ。
自分の姿ではないことを少し寂しく思いながら、それでもライトは、優しく微笑んだ。
その笑顔に、アリアナまで少し戸惑ってしまう。
「ありがとう……。ハーレムの事だけじゃなくて、こんな事まで相談に乗ってもらうなんて」
言いながら、アリアナは、両手で髪の先をゆるゆると触った。
翌日も、アリアナ様ランド(仮)の面々は、正式名称をつけるべく、ランチに集まった。
「私、考えたんですけど」
またもや、アイリが真剣な表情をする。
「『今宵、公爵令嬢と思い出を……』なんてどうですかね」
フリードがたじろぎもせず、
「いい思い出ができそうだね」
なんていつもの笑顔で同意するので、危うく話が拗れるところだった。
「夜の思い出とか。その意味ありげな"……"は何よ」
フリードもフリードで、どうでもいいと思ってるんじゃないでしょうね?
「こほん、」
と咳払いをするフリをしてアリアナは話し始める。
「コンセプトからいって、」
アリアナが全員の顔を見渡した。
「『ハロー・ハーモニー』とかどうかしら」
女の子達のハローの声が、ハーモニーのように聞こえる。
晴れやかな店舗を想定した言葉だ。
まず、フリードがいつもの調子で「いいね」と微笑んだ。
この男、ほんとにどうでもいいんじゃないでしょうね……?
アイリの目は聞くまでもなくすでにキラキラしているし、ドラーグは、正直なんでもよさそうだった。
「じゃあこれで決まりってことで。がんばりましょ」
「おー!」
アイリとフリードの声が、柔らかく響いた。
アリアナはアカデミーで活動しているライトを見てから、少し楽に接する事ができるようになったみたいですね。