134 出し物を決めましょう(2)
そこにいたのは、フリード・スレイマンだった。
にっこりとした上品な笑顔。
「洋服屋、なんてどうかな」
洋服屋……。
確かに、ありかもしれない。
フリードは、オシャレに敏感なタイプのようだし。
貴族のお嬢さん達は、特注で作ってしまうことが多い。
デザインも1点ものだ。
けど、市販のものを試着して選ぶ楽しみだって、あっていいんじゃないだろうか。
女子高生がわちゃわちゃと自分達だけで試着しあいながら買い物をする光景なんかが。
例えば、文化祭なんかで。
ファッション小物なんかのお店でもいい。
帽子でも、手袋でも、ショールでも。
「確かに、いいわね」
なんて言いながら、前世の事を思い出す。
こういう時は、大体において、前世の知識が役に立つはずなのだ。
例えば、ドレス……。
なんて考えたけれど、“ドレス”というものはキャバ嬢的なものしか思い浮かばない……。
多分ちょっと違う……。
けど、既製品の普段着でなら、少しは役立つかもしれないものね。
「僕、こういうものが描けるんだけど」
そう言いながら、ちゃっかり席に着いたフリードは、持っていた書類のような数枚の紙をテーブルに広げた。
「これ……」
それは、洋服のデザイン画だった。
「ちょうど、文化祭の仲間を探していたんだ」
「すごく……綺麗……」
ドレスばかりだけれど、少し手を加えれば令嬢の普段着にも使えそうだ。
所々に刺繍がしてあるのが、フリードらしさといえばらしさだろうか。
「みんなは、どう?」
アイリはすでに目がキラキラだ。
「すごく綺麗です!!」
ドラーグの方は既に、どこからどんな材料を調達すべきか考えているようだった。
反対はいないみたいね。
「じゃあ、よろしく頼むわ」
「ああ」
そんなわけで、商品が決まった。
「私が仕切るわね」
まずアリアナが申し出る。
「僕がデザイナーでいいのかな」
フリードの人当たりのいい笑顔だ。
「ええ。私も見せてもらっていいかしら」
「もちろん」
「材料は俺が集められる」
ドラーグは、言いながらも何処から何を調達しようか、フリードのデザイン画を見つつ考えているようだ。
「ただし、縫製する店は、すぐには見つからない」
「うん。僕も探してみるよ」
すでに息はぴったりみたいだ。
「じゃあ、私は何をすればいいんでしょうか……」
困った顔で言うのは、アイリだ。
「私は、特別できる事もありませんし……」
そんなアイリを、三人は、温かな瞳で見つめた。
フリードがにっこりと笑う。いつもの、裏で何か考えていそうな優しい笑顔で。
「あるじゃないか。君にぴったりの役が」
「え?」
アイリが、怪訝な顔で三人を見渡した。
ドラーグが、フッと笑顔を見せる。
「そりゃあ、売り物の服を着て、店に立つ役だろ」
「…………」
キョトンとしたアイリが、やっと思い立ってハッとした顔をした。
「そ、そんな大役を!?」
「うん」
驚く顔のアイリに、三人は当たり前のように頷いた。
この4人メインで文化祭出店をやろうかと思います。