127 誘拐事件!(5)
そうだ……。
ふと、思いつく。
魔術師団みたいな魔術集団にスパイがいるんじゃないかしら。
国の技術が盗られている。
それならば、このような高等な魔術が扱えるのにも、アカデミーに侵入出来たことにも説明がつく。
「はぁ……」
小さくため息をついた。
……驕りがあった。
私でも戦えるって。
けど、背後の気配にも、上からの奇襲にも、対応できなかった。
実戦の経験などあるはずもなかった。
膝を抱える。
余計に迷惑かけちゃった……。
ガチャン。
扉の向こうから音が聞こえた。
どうやら、扉の向こうにもまた扉があるようだ。
うずくまったまま、じっとする。
「うぉしうぉし、ちゃんと入ってるな」
「…………」
ガサツな声がいくつか聞こえた。
けれど、その中に、偉そうな声が一つ。
「アカデミー生か。何処かのご令嬢みたいだな」
若い、男性の声。
……この人だけ雰囲気が違う。
けど……。
公爵家の色と家紋に気付かないあたり、あまり貴族に詳しくはなさそうだ。
「ここから出る時役には立つだろ。そのまま置いとけ」
それからすぐに、いくつかの足音がして、大きな扉の音がすると、その場は静かになった。
4、5人は居たみたいだった。
なんの計画も無く飛び出すのは無謀としか言いようがない。
逃げるにしても、今じゃない。
レイはどうしているだろう。
戻ったらきっとこっぴどく怒られるのだろう。
もしレイが…………。
と、思いかけてやめておく。
こんな場面で魔術師が出しゃばってくるなんて話は、聞いたことがない。
レイノルドが助けに来るなんて事はないのだ。
そう、こんな時来てくれるのは、サウスフィールドの騎士団あたりだろう。
エリックだって、アリアナがさらわれたところを見たはずだ。
助けに来てくれるとしたら、エリックだ。
けどもし、レイが心配してくれているのだとしたら。
「…………」
……こうしていても、思い浮かぶのはレイの顔だなんて。
最悪だわ。
こんな気持ちは。
それから数時間が経った。
高窓から光が消えて行く。
夕陽がかき消え、夜がやって来る。
牢獄のような部屋には、灯りなどはなく、ただ月明かりだけが頼りだ。
静かに耳を澄ませ、じっと高窓を眺めた。
この調子だと、食事もないんでしょうね。
見張りにも来ないところを見ると、その程度の認識らしい。
公爵令嬢だとバレていないと思って良さそうだ。
夜が更けてから動くとして、高窓と扉のどちらがいいかしら。
得物は一本。
まず窓の外を確認するのが先か。
そうこう悩んでいると、カタン、と頭上から音がした。
ぱっと視線を向ける。
見上げた高窓が、当たり前の様にするするっと開く。
助けが来た……?
念の為、剣に手を掛け、立ち上がる。
開いた高窓から、一人の人物がすとん、と飛び降りた。
基本的にイケメンばかりの物語なので、誘拐犯もイケメンに違いない。