126 誘拐事件!(4)
アリアナは、失念していた。
先日侵入者と出くわした時、剣を振るっていたのがアリアナだという事を。
つまり、同じ場所で出くわした場合、危険人物としてまず狙われるのはもちろんアリアナなのだ。
見かけた人物が新しい教師、ジル・ディールであることに気づき、追いかけてしまったのは失策だった。
それで一人になってしまったのだから。
先生、またこんなところに……。
何もないならないで、確認しておきたいわね。
アイリの為にも。
できる限り音が立たないよう、そっと足を忍ばせる。
……?
あれ……?見失って……。
その時だった。
「うぐっ……」
誰かがアリアナの後ろから、口に布を巻きつけた。
すかさず剣を取り、布を引きちぎるように口から外す。
相手に剣を突きつけると、そこに居たのは、見知らぬ男だった。
顔を布で隠し、ダガーナイフを持っている。
いかにも悪人といった風体だ。
後ろになった木の陰から、2人ほど出てきたのがわかる。
これはちょっと……ヤバいわね……。
とにかく隙を突いて突破しなくては。
アリアナがダッと駆け出し、目の前の男を躱すように突っ込んで行く。
ガン!
刃と刃が叩きつけられる。
出来るだけ大きな音を立てて、エリックに気づいて貰おう。
その作戦は上手くいったらしく、すぐにエリックの声がした。
「待ってろ!今行く!」
けれど、次の瞬間、頭上で気配がしたと同時に、アリアナの視界は真っ暗になった。
剣を上へ突き上げ、悲鳴が聞こえたけれど、そこまでだった。
「ダメ……っ」
頭がぐらりとする。
これは……精神系の魔術……?
倒れ込んだアリアナが、どさり、と尻餅をついたのは、もう芝生の上ではなかった。
剥き出しの土の、冷たい感触。
「いたた……」
どうなってるの……。
緩んだ目隠しを取り払い、周りを見渡す。
見たこともない場所。
それも、扉と高窓1つの小さな部屋だ。
何……ここ……。
きっと魔術で転移させられたのだろう。
木製の萎びたベンチのようなものがあるだけで、他は石壁ばかり。
小さな覗き穴のある頑丈そうな木製の扉の向こうは、人の気配はしない。
あの状態のまま転移させられただけあって、剣はそのまま手の中にある。
制服の腰の鞘に収めておいた。
アリアナはそっと壁伝いに扉のそばまでくると、そっとその取っ手を押してみる。
押しても引いてもびくともしないのを確かめた。
「動かない、か」
そっと、扉の小窓を遠くから覗く。
簡素な天井が見える。
外は意外と暗くはなく、灯りが灯っている室内のようだ。
目線が小窓まで届かず、それくらいしか見ることができなかった。
高窓の外は、青い空が見える。
捕まっちゃった…………。
迂闊、としか言いようがなかった。
出られない。
ここで暴れても出られないものは出られないので、力の温存のため、ベンチにとさりと座り込む。
それにしたって、あんな高度な魔術を使われるとは思わなかった。
ああいうものは、魔術師団の企業秘密でしょう……。
そんなわけで誘拐されてしまったアリアナだったのでした。事件ですがラブコメ展開でいきます!