123 誘拐事件!(1)
新学期が始まって、数日。
生徒みんなが文化祭を意識し始めたその日は、いつになく、少し騒がしい朝だった。
朝、席についた生徒達は、どこかピリピリとした空気を感じ取り、いつになくしんと静まり返った。
「落ち着いて聞いてください」
教壇に立つ教師が、みんなの顔をゆっくりと見て、静かに話し始めた。
「学内に、侵入者の痕跡が発見されました」
アカデミーの周りは壁で囲まれており、どういう仕組みか周知はされていないけれど、無関係な者は入れないようになっているという話だ。
侵入者が居たという事はつまり、それを突破してでも、侵入してきた者が居るという事。
生徒達はざわつき、気を引き締めたけれど、それだけだった。
教師達も、自分の身を守る事を伝えたのみで終わる。
「毎年あるのよ」
その結果、高等科の1年生は全員、その日は食堂に食事を注文し、教室で昼食をとるようにした。
中等科から上がってきた生徒達がうんうんと頷く。
1年生達は、席を移動し、全員で集まるようにして昼食をとることにした。
それぞれの席には、持ち運びやすくされ縦に積めるようになっているメインのプレート、サラダのプレート、デザートのプレート、それにお茶の入った水筒が準備された。
スプーンやフォークもカトラリーセットとして、ひとつの箱に入れられたものが配られる。
「ここはよくも悪くも貴族の子供達が集まる場所だから……。悪いことを考える人間も多いの」
シシリーが困った顔をする。
「秋は文化祭があるでしょう?誰でもアカデミーに入れる時に何かやらかそうとする人間が多いわけ。それこそ、誘拐や殺人なんかもね」
「それで、」
アリアナが落ち込んだ顔を見せる。
「事前に侵入経路なんかを確認するのに、この時期からこういう事が多くなるのよ」
それを聞いて、レイノルドがため息を吐いた。
「なるほどな」
国を護る魔術師の上位に居るレイノルドとしては、こういう話は我慢できないのだろう。
その日から、1年生達は、できる限り3人以上で、戦闘力のある人がいる状態で行動するよう心掛ける事になった。
「私達にはアリアナが居るから大丈夫だわ」
アイリとシシリーがそんな風に呑気に話せたのも、その日限りだった。
狙われたのは、アイリだった。
その夜、アイリが寮の扉を開けた瞬間、アイリは、顔を真っ青にした。
割れたガラス。
壊れた窓枠。
破られた布団。
布団の中の綿は床に散らばり、散乱したガラスの破片と相まって、気軽に歩くのが危険だと分かる。
文化祭のために考えていたメモ書きまで、ボロボロになって床に散らばる。
どう考えても、刃物を使って暴れたとしか思えない惨状。
その日は、同じ寮にいた同じ学年の子の部屋に泊まったけれど、寮はみんな気が気ではなかった。
翌日、その話を聞いたアリアナは、
「許せないわ」
と立ち上がった。
さてさて新展開です!