117 ささやかなプレゼント(2)
教えられながら作るクッキーは、案外簡単だった。
「…………」
「えっと、お嬢様。もう少し均等に伸ばすと綺麗にできますよ」
「ええ。初めてだから大目に見て頂戴」
生地伸ばしに苦戦するアリアナの横で、やはり初めてなはずのジェイリーが、器用にも生地から型を抜いていく。
……騎士のくせに器用なんだから。
これでも、初めてにしてはうまくいっているはずだ。
時間にも余裕があるし。
そう。
思ったよりも簡単だ。
ジェイリーはすでに、クッキー生地の上に、ジャムを乗せ始めていた。
あれを焼くと、美味しいジャムクッキーが出来上がるという寸法だ。
ゴロゴロと、慎重に生地を伸ばしていく。
「こんな感じじゃないかしら!」
「わー!いいですよお嬢様!」
アリアナとナルが手を叩いて喜んだ。
ジェイリーはすでに、オーブンに火を入れてもらい、クッキーを焼きにかかっていた。
オーブンの前で腕を組み、ピシッと立っているジェイリーは、まるで何処かの戦場で勝利を確信した騎士のようだ。
「……生地が型からはずれないわ……」
アリアナが型抜きと戦っている間に、ジェイリーのクッキーからはいい匂いがしてくる。
ジェイリーがオーブンから取り出し、くるりと回した天板の上には、綺麗な16個のクッキーが並んでいた。
私も器用な方だと思うんだけど、あのスピードには勝てない。
要領がいいんだろうか。
なんとか生地を並べ終わり、ジャムを乗せる。
ドキドキしながらオーブンにクッキーを入れた。
こうして公爵家のパティシエールの力を借りているのだから、食べられるものができるはず。
「ふっふっふっふ」
十数分後。
オーブンから取り出されたクッキーはいい匂いがした。
くるりとちょっとかわいこぶって振り返ったジェイリーが、
「じゃあ、食べ比べましょうか」
とにっこりと笑う。
「ええ」
ふるふると震える手で、アリアナはクッキーを掴むと、真剣な顔で、
「ちょっと熱いかもしれないわ」
と、クッキーをジェイリーの口へ差し出した。
ジェイリーも同じように、クッキーを指でつまむと、
「お嬢様、あーん」
とにっこにこだ。
二人はお互いのクッキーを、かぷりと口に入れた。
「…………!」
ジェイリーの目がキラリと光る。
「お、おいし〜〜〜!」
二人の声がハモった。
それぞれ、今度は自分のクッキーを口に入れた。
ジェイリーのクッキーより少し固いだろうか。
けど、サクサクとした温かなクッキーは、そんな多少の事はものともしない雰囲気で、何枚でも食べられそうだ。
パティシエールのナルも、それぞれのクッキーを食べ、合格点を出した。
ナルのおかげで、綺麗に包めば、市販品にも劣らないクッキーができた。
「喜んでもらえるといいですね」
「ええ、そうね」
緊張とワクワクが入り混じる。
「喜んでもらえるといいわ」
ジェイリーはいつもあったかい笑顔でニコニコしてるタイプのお兄ちゃんです。