112 劇薬のそれから(1)
アリアナが目を覚ますと、目の前にはレイノルドの顔があった。
「!!!!!!?????」
あげようとした悲鳴を、すんでのところで堪える。
寝て……る……?
薄い色の睫毛。
整った顔がよく見える。
よくよく見れば、そこはレイノルドの部屋だった。
開け放たれた窓からは、そよそよと風がそよぐ。
来た事のある部屋だった。
なぜかアリアナは、レイノルドと共に、レイノルドの部屋で眠っていたようだった。
そうだ……私、劇薬を飲んで……。
レイノルドに助けを求めたんだ。
それにしては、状況はおかしかった。
着ていた服は着ていないどころか、なんだかとても小さい服を着ていたようで、着ていたはずのワンピースは、背中の部分がすっかり破れていた。
スカートも、スカートの役目を放棄してしまっている。
慌てて布団をかき集め、身体に巻きつけた。
レイが、看病してくれたのかな。
それにしては、くっつくほどの距離で、すやすやと眠っている。
一体どうしてこんな事に???
レイノルドとベッドの中で何かあった………なんて、ね。
まあ、そんな事はないだろう。
というのも、さっきから部屋の隅の奇妙なものが視界に入っているからだ。
白いゴムのようなロープでぐるぐる巻きになって天井から吊るしてあるあれは、間違いなくアルノーだ。
普段からそうなのか、レイノルドに吊るされたのか、アルノーはどうやら、天井からぶら下がったままやはり眠っているようだった。
レイはロマンチストだし、まさかあんなものがぶら下がってる部屋で女の子を口説きはしないだろう。
じゃあどうして……。
思ったところで、ふっと思い出した。
それは、忘れていた夢を思い出すような感覚。
そう……だ……。
身体が小さくなってしまって……、それで……。
二人とずっと遊んでもらってたんだ……。
それで……。
私ったら……。
アリアナは、ふるふると震えた。
私ったら……、レイに抱きついてばっかり……!!
うわああああああああああああ……。
ベッドの上に突っ伏し、気持ちを抑える。
なんてことしてしまったの……。
この気持ちは知っている。
アリアナは、お酒が飲める年齢ではなかったけれど、左門はよく飲んでいた。
そして飲み過ぎてやらかしては、やらかしたことはきっちり憶えていて、翌日ぐるぐるする胃と共に後悔するのだ。
「…………」
半泣きになりつつも、レイノルドの顔を眺める。
頬がツルツルね。
それになんだか爽やかな香り。
すっかりすやすや寝てくれちゃって。
さて、この格好でどうしたら……。
「ん……?」
レイノルドが、声をあげた。
起きた……かな。
レイノルドは目を閉じたまま、腕を上げた。
「アリアナ……?」
声がむにゃむにゃしている。
寝起きが悪いみたいね。
「起きたの……?僕まだ、目が開かなくて……、ごめ……」
そのままぐいっとアリアナが引き寄せられた。
近いわ……!!
「ん……?」
流石に夢うつつでも、5歳程度の子供の感触と、15歳の女の子の感触の違いはわかるらしい。
目の前で、ぱかっとレイノルドの目が開いた。
「…………」
ほんの数センチのところでレイノルドと目が合う。
「………………」
「………………?」
がばっとレイノルドが飛び起きた。
「ご……め……」
……別にいいのだけど。
狼狽えたレイノルドだったけれど、アリアナの姿を見て、さらに狼狽えた。
アルノーはもちろん、失言のせいで吊るされたわけです。シュルシュルって捕まえられるんですかね。