111 夫婦ごっこ(5)
レイノルドが目を覚ますと、アリアナがちょうど目を覚ましたところだった。
ヴァイオレットの瞳が、ふっと緩む。
「おはよう、アリアナ」
「おはよ」
まだ小さなアリアナが、ふにゃっと笑った。
誰かがそばにいるってのは、いいものだな。
そんな感慨に耽るのも束の間、アリアナは起き上がって、
「あそぼ!」
と大騒ぎを始めた。
それに起こされたのか、アルノーもむくりと起き上がる。
「おー……アリアナぁ、すっかり元気だなぁ」
アルノーはすっかり親戚のお兄ちゃんみたいだ。
その日も、のんびりと過ぎていった。
アリアナが元に戻る事もなく、遊びに手を抜ける事もなく。
お茶の時間は、三人でケーキを食べた。
「レイノルド!いちごがおいしいわ!」
「そうだね」
レイノルドがふっと笑う。
アルノーがそこへ口を挟んだ。
「レイノルドって呼ぶんだな。レイじゃなくて」
アリアナは、ぷっと口を尖らした。
「あいしょうでよぶだいじなひとは、もういるから!」
「…………」
「……え?」
二人して、どういうことなのかわからないという顔をして、アリアナを見る。
大事な人。
好き、じゃなくて、大事?
どういう意味で?
それって……僕の事……?
先に口を開いたのはアルノーの方だった。
「え、これって……。今の感情じゃないよな?」
「え……意識は5歳当時だし、……5歳の頃の話だよ」
「じゃあ、5歳の頃それくらい仲が良かったってだけだよな」
「……ああ、うん」
アルノーがジェイリーに報告がてら部屋を出ていくと、静かになった部屋で、アリアナはウトウトとしだした。
ミルクのカップを持ったまま、ふにゃふにゃとしている。
流石に疲れたんだろう。
アリアナの蜂蜜色の髪が、テーブルの上でふわふわする。
アルノーは廊下でジェイリーと話し込んででもいるんだろう。
なかなか戻っては来なかった。
「アリアナ、眠いなら着替えたほうがいいよ」
小さく声をかけるけれど、起きる気配もない。
レイノルドは仕方なく、アリアナを抱えてベッドへと運んだ。
ずっと楽しそうではあるけれど、慣れない場所での生活は、疲れるに違いない。
懐かしい、あの頃の寝顔。
いや、今の寝顔は知らないか。
小さい頃は、一緒に居ることが多かった。
あの頃は、隣にいた。
「アリアナ」
小さく声をかける。
アリアナはまったく聞こえない様子で、むにゃむにゃと眠っている。
確かにアリアナだ。
確かにアリアナなのに。
会いたくなってしまうんだ。
あのツンとした歩き方とか、ハーレムを作るなんて意気込んでいる君の姿、笑顔に泣き顔に、全部が。
恋しくなってしまうんだ。
クシャクシャと、アリアナの頭を撫でた。
柔らかな髪の感触。
「早く戻っておいでよ」
開け放った窓から、そよそよと風が吹く。
「アリアナ」
早く、その目を開けてよ。
「好きだよ、アリアナ」
薄いカーテンが、ふんわりとなびく。
その時、レイノルドの後ろから声がかけられた。
「うっわ……。流石に幼女に発情するのやめろよ……」
これもイチャイチャラブコメには違いない……?