108 夫婦ごっこ(2)
「ほぅら、可愛いだろ?」
アルノーが買ってきた5着ほどの服は、お人形が着るような3枚のひらひらワンピースと2着のひらひらした部屋着だった。
靴やヘッドドレスなども欠かさない。
「かわいい〜〜〜〜!!」
アリアナの目がキラキラする。
「きてもいいの!?」
広げた洋服に乗り上げるようにアリアナが騒ぐ。
レイノルドは少し懐かしくなっていた。
小さい頃のアリアナは、誰よりも笑っていた。
笑っていて、走っていて、それでいて高貴だった。
「メイドに着替えを手伝ってもらって。そしたら、公爵にこの事を話そう。サウスフィールドにも話をしないと。公爵令嬢がこの姿だなんて外に漏らすわけにはいかないから、出来るだけ内密に」
それだけを静かに言って、レイノルドはメイドを呼んだ。
それから程なくして、レイノルドはアリアナと公爵執務室へ向かった。
「父さん」
「どうした?突然面会依頼なんて」
ふいっとレイノルドの方を向いた中年男性は、レイノルドと手を繋いで、鼻息を荒くしている幼女に目をやった。
「……まさか、お前がそこまで思い詰めてるなんてな。いくらそのご令嬢がアリアナに似ていても、その年齢は犯罪だろう?」
「なんでですか!違いますよ。……この子は、アリアナ本人です」
「なぬ?……いやぁ、確かに確かに。懐かしい、くりくりした瞳のお嬢さんじゃないか」
「アリアナが来た事はご存知でしょうに。白々しい」
なんていうコントを繰り広げ、レイノルドとアルノーは若返ったアリアナの面倒を見ることになった。
さすがに公爵令嬢であるアリアナが若返った事は、外の人間に知られるわけにはいかなかった。
こんなに弱った姿になったとバレてしまえば、誘拐される危険もある。
そんなわけで、出来るだけ知らせるのは少ない人数で。
アリアナが元の姿に戻るまでルーファウスの屋敷から出さない事になった。
「はむ」
アリアナは、とりあえず疲れただろうと出されたビスケットとミルクにご満悦で、ほっぺたをむくむくさせて食べる姿はかわいいとしか言いようがない。
「かっわいいなぁ」
アルノーが言うと、そんなのは当たり前だと言うように鼻をふんとさせる。
「触るなよ?」
アルノーが手を伸ばすと、レイノルドがすかさず言う。
「む~……」
アルノーは不満を隠さない。
「おにいちゃんもたべる?」
はい、とアルノーに渡してきたビスケットは、1枚の半分もない。
「ありがとよ」
アルノーはビスケットを一口で口に入れた。
「レイノルドももっと楽しそうに笑ってたほうが、アリアナからご褒美もらえるんじゃないの?」
「……」
アルノーは、「こんなちびっこから"ご褒美"なんて」と言われるんじゃないかと思ったのだけれど、予想に反してレイノルドは、アリアナをじっと見た。
「どんだけ拗らせてるんだよ……」
アリアナは、そんなレイノルドの様子をじっと見た。
4、5歳のアリアナの記憶が当時の状態になってしまっていたとしても、アリアナは、当時すでにレイノルドとは友達だった。
友達と似ている人間が目の前にいて、不思議に思っているというところだろうか。
何を思っているのかわからないまま、アリアナは、レイノルドにビスケットを差し出した。
やはり1枚を更に割ったビスケットで、そんな半分のビスケットを、レイノルドは嬉しそうに受け取った。
この調子でしばらくは、5歳児令嬢とレイノルドくんのイチャイチャラブコメエピソードだったりします。